「人生100年時代」の到来とともに、認知症は多くの人が向き合うべき大きな課題の一つとなっています。特に80歳を超えると発症率が著しく高まります。現役医師として活躍する鎌田實氏(77歳)は、自身の経験と医学的知見から、この「80歳の壁」に備え、健やかな晩年を過ごすための「生き方」を提言しています。彼の哲学は「うまいように死ぬ」ためには「うまいように生き」、そして「やりたいことを続ける」ことが重要だと言うことにあります。
医師の鎌田實氏が語る人生100年時代の課題(FNNプライムオンライン提供)
「80歳の壁」が示す認知症の現実
人生100年時代において、多くの人が直面する可能性のある問題が認知症です。厚生労働省のデータなどによると、高齢者の認知症発症率は80代前半で男性の約6人に1人、女性の約4人に1人に上ります。これは、80歳という節目を超えると、多くの人が認知症と無縁ではいられなくなるという厳しい現実を示しています。さらに90歳を超えると、その割合はさらに増加し、男性の2人に1人、女性の3人に2人が認知症であると言われています。健やかな最期を迎える「うまいように死ぬ」ことは、決して容易なことではなく、人生100年時代は苦難の時代とも言えるかもしれません。
鎌田實氏の著書『うまいように死ぬ』(扶桑社)の表紙
77歳、医師自身に訪れた「老化の波」
現在77歳で医師として活動を続ける鎌田氏にも、自身の老化を実感する瞬間が訪れています。テレビを見ていて俳優や歌手の名前がすぐに出てこないといった現象が増え始めたと言います。また、大好きな本、特に詩集を買い求める際に、すでに自宅にある田村隆一氏の詩集を誤って再び購入してしまった経験を語っています。天井まで届く設計の本棚に並べられた詩集の中に、同じ本を見つけたときの驚きは、彼自身の認知機能への意識を高めるきっかけとなったのかもしれません。
認知症予防のための医学的知識と実践
認知症発症の前段階に「MCI(軽度認知障害)」というのがあります。さらにその前段階として「SCD(主観的認知機能低下)」という症状があり、これは自身で認知機能の低下を感じつつも、日常生活に支障がない「未病」の状態です。認知症の一因とされるアミロイドベータというタンパク質は、40代ないし50歳ぐらいから脳内に蓄積が始まると考えられており、発症までに20年ほどの期間があるとされています。鎌田氏は、こうした医学的知見に基づき、認知症にならないための意識改革を60歳頃から始めました。具体的には、肥満にならない、血圧を高くしない、タバコを吸わないといった基本的な健康管理に加え、強い好奇心を持ち続け、できるだけ多くのことに感動することを心がけてきたと言います。
60歳から始めた具体的な取り組み:筋活と心の健康
近年注目されているのが、筋肉から分泌される「マイオカイン」という物質です。マイオカインには、血圧や血糖値を下げる効果に加え、認知症リスクを低下させる可能性が論文でも発表されています。鎌田氏はこれを知り、毎日の「筋活」として、スクワットや自身考案の「カマタ式かかと落とし」などを実践しています。60歳から80歳までの期間をどのように過ごすかが、「80歳の壁」を越えた後の人生に大きく影響すると考え、この期間の過ごし方を特に意識してきたと述べています。健康な体と活発な心を維持する努力が、健やかな老後へと繋がるというメッセージが込められています。
まとめ
「人生100年時代」を健やかに生き抜く鍵は、いかに「うまいように生きるか」にかかっています。80歳以降に高まる認知症リスクへの備えとして、医師である鎌田實氏が提唱する60代からの意識改革と具体的な健康習慣(筋活、知的・感情的活動)は極めて重要です。単なる長生きではなく、心身ともに健やかに「やりたいことを続ける」生き方を追求することこそが、悔いのない晩年へと繋がる道筋と言えるでしょう。「うまいように生きる」哲学は、超高齢社会における私たちの生き方に多くの示唆を与えてくれます。
参考文献
- 鎌田實 著 『うまいように死ぬ』(扶桑社)