よど号ハイジャック事件から55年が経過した今年3月、事件の実行犯らが東京都を相手取り、異例の訴訟を起こしました。警視庁のウェブサイトに顔写真が掲載されていることが精神的苦痛を与えたとして、損害賠償を求めています。この訴訟は、何を目的としているのでしょうか。
警視庁サイトの写真掲載を「肖像権侵害」と主張
今回の東京都に対する訴訟を起こしたのは、よど号事件の実行犯である魚本公博容疑者(77)、同じく実行犯・若林盛亮氏の妻である若林佐喜子容疑者(70)、そしてリーダーだった故・田宮高麿氏の妻である森順子容疑者(72)の三人です。
彼らは現在も北朝鮮の平壌で暮らしており、ヨーロッパでの日本人留学生拉致容疑で国際手配されています。警視庁のホームページに顔写真付きで指名手配犯として掲載されていることについて、訴状では「極めて重大な犯罪者との印象を与える」「精神的打撃を与える」と主張。これは「肖像権侵害の違法性の程度が高い」として、一人あたり550万円、計1650万円の慰謝料を請求しています。
よど号ハイジャック事件の実行犯と日本人妻とされる魚本公博、若林佐喜子、森順子容疑者ら
帰国へ向けた「政治的なアプローチ」か
彼らが東京都を訴えるのは今回が初めてではありません。12年前にも、結婚目的誘拐の拉致容疑による逮捕状の発行が違法だと主張し、国賠訴訟を起こしています。この訴訟は最高裁まで争われましたが、「民事裁判において、刑事上の責任の存否に関わる判断は予定されていない」として棄却されました。
繰り返される訴訟について、「救援連絡センター」の山中幸男事務局長は、今回の件は実態として過去の訴訟と同じ「帰国のための政治的なアプローチ」だと解説します。根拠がないとする拉致容疑の逮捕状撤回がまず先決であり、それが実現すれば他の日本人と同様に帰国できるというのが彼らの考え。今回の訴訟もその一環と位置付けている模様です。
警視庁ウェブサイトの国際手配コーナーに掲載されているよど号事件関係者の顔写真
今回の東京都への訴訟は、よど号事件の関係者らが、指名手配情報の公開方法に対し異議を唱える形で行われています。彼らの主張や過去の経緯を踏まえると、この訴訟は単なる慰謝料請求に留まらず、帰国を実現するための戦略的な一歩として位置付けられていると言えそうです。今後の司法の判断、そして彼らの帰国を巡る動向が注目されます。