小学校入学を迎える子供を持つ働く保護者にとって、深刻な課題となるのが「朝の小1の壁」です。これは、親の出勤時間と小学校の登校時間に生じるずれ、特に保育所よりも遅い小学校の登校時間によって、子供を登校前にどこに預けるかという問題です。2024年5月に公表された国の報告書によると、小学生の朝の居場所づくりを実施または検討している自治体は全体のわずか3%に留まっています。中には、約1億円を投じた対策が利用者低迷に悩むケースもあり、問題解決は全国的に進んでいない現状が浮き彫りとなっています。しかし、神奈川県大磯町では、この課題に対し先進的な取り組みを行い、成果を上げています。この記事では、「朝の小1の壁」の実態と、大磯町の具体的な取り組みについて掘り下げます。
保護者たちの抱える「1時間」の切実な問題
「おはようございまーす」午前7時半を過ぎると、神奈川県大磯町の朝の子どもの居場所づくり事業の場所に、小学生を連れた保護者が続々と姿を見せます。子供をスタッフに預けると、保護者たちは足早に職場へと向かいます。これから1時間かけて勤務先の学校へ向かうという50代の女性は、「ここがなければ、毎日1時間の休みを取らざるを得ない。生活が成り立たなくなってしまう」と語ります。隣の平塚市で働く40代の女性も、「始業が8時半でかなりぎりぎり。ここで預かってもらえないと、勤務時間を変更するしかない。本当に助かっている」と感謝の言葉を述べ、車に乗り込みました。横浜市に勤務する40代の男性は、始業は9時ながら準備で早めの出勤が必要だと言います。「子供が小さい間は、家に一人置いていくのは心配。ここがあるから安心して仕事に行ける」と語り、最寄りのJR大磯駅へ急ぎました。これらの声は、働く保護者にとって、たった「1時間」の登校時間の差がいかに大きな壁となっているかを示しています。
登校前の時間を安全な場所で過ごす小学生のイメージ写真
大磯町の先進的な「朝の居場所づくり」
町立大磯小学校の敷地内で実施されているのが、大磯町が全国に先駆けて約10年前から取り組んできた「朝の小1の壁」解消に向けた事業です。多くの保育所では午前7時から子供を預かることが可能な一方、小学校の登校時間は一般的に午前8時以降です。この1時間程度の時間のずれが、保護者、特に共働き家庭にとって出勤時間の調整を困難にしています。大磯町は、2015年度に神奈川県のモデル事業として、町内2つの公立小学校で「朝の子どもの居場所づくり」を開始しました。「保護者からの強いニーズがあったため、モデル事業終了後も町が独自に事業を継続し、現在に至っている」と、同町子育て支援課の担当者は説明します。この事業の利用には事前の登録が必要で、原則として保護者が子供を送迎します。開始当初の2019年度には町内2校合わせて40人だった登録者数は、2024年度には約120人と、約3倍に増加しており、事業へのニーズの高まりとその効果を示しています。
結論:広範な対策が求められる「朝の小1の壁」
「朝の小1の壁」は、働く保護者、特に小学校入学を控える家庭にとって、仕事と育児の両立を困難にする現実的な問題です。国の報告書が示すように、全国的に見るとこの問題への具体的な対策を進めている自治体は非常に少なく、多くの保護者が依然として困難に直面しています。しかし、大磯町のように、保護者のニーズに応える形で継続的な「朝の居場所づくり」事業を実施し、利用者数を着実に増やしている事例も存在します。これは、地域のニーズに基づいたきめ細やかな子育て支援策が有効であることを示唆しています。今後、「朝の小1の壁」を解消し、すべての働く保護者が安心して子育てできる環境を整備するためには、国や他の自治体において、大磯町の事例を参考にしつつ、より広範で実効性のある対策が講じられることが強く求められています。