集英社新書から発売された二宮和也氏のインタビュー集『独断と偏見』が注目を集める中、長年アイドル取材に携わってきたライターの村瀬まりも氏は、その内容に落胆を表明しています。ジャニー喜多川氏による性加害が公式に認定された後に実施されたロングインタビューであるにも関わらず、出版社側が問題の核心に踏み込んだ質問をしていない点に対し、「お察し」文化の継続を指摘。この記事では、村瀬氏の分析を基に、二宮和也氏のこの新書インタビューが浮き彫りにする日本のメディアと芸能界の構造的問題を探ります。
落胆させた新書インタビューの形式
村瀬氏は、自身のアイドル取材経験から、この新書が採用した「四字熟語のお題に基づき100のQ&Aを構成する」という手法が、アイドル雑誌でよく見られるパターンであると指摘します。これは、タレントの意外な一面や内面を見せることを狙う手法であり、新書というより深い議論を期待される媒体には不向きであると感じています。特に、ジャニー氏の性加害問題という重大な社会的問題を背景とする時期のインタビューとしては、表面的な質疑応答に終始しているとの批判です。
ジャニー性加害問題、避けられた核心
新書が発売されたのは、ジャニー喜多川氏による性加害が公式に認められ、旧ジャニーズ事務所がSMILE-UP.への社名変更、被害者への補償専念、STARTO ENTERTAINMENT設立という激動の変革期を迎えた後です。このタイミングでのインタビューであれば、問題の背景、組織の責任、自身の立場などについて、より深く踏み込むことが期待されます。しかし、集英社がジャニーズ関連雑誌を多く刊行する子会社を持つこともあり、出版社側が意図的に核心を避けたのではないか、という疑念が提示されています。
独立という大きな決断、その理由に触れるも…
インタビューの中で、二宮氏は2023年10月に旧ジャニーズ事務所から独立し、個人事務所「オフィスにの」を設立したことについては比較的多くのボリュームを割いて語っています。嵐としての活動はSTARTO ENTERTAINMENTと契約を継続しつつも、誰よりも早く独立を決断した理由として、このように述べています。
「これからの仕事を考えたときに、世界基準で信頼や評価を得られない可能性のある事務所にいたままで仕事をするわけにはいかなかったから、独立の決断は早かったよね」(『独断と偏見』より引用)
性加害問題が世界的な報道となり、旧事務所への信頼失墜が避けられない状況下で、自身のキャリアを世界標準で考えた結果の独立であると説明しています。しかし、この独立の決断に至るまでの内面的な葛藤や、性加害問題そのものに対する彼の見解など、より踏み込んだ部分は語られていないとして、村瀬氏は物足りなさを感じています。
俳優・二宮和也氏、第78回カンヌ国際映画祭でのフォトコールにて。新書インタビューで語られた独立後の国際的な視点を象徴
今回の二宮和也氏の新書インタビューは、芸能界における重鎮のスキャンダルに対して、メディアがどこまで踏み込めるのか、また「お察し」文化が依然として根強い現実を浮き彫りにしています。アイドルとしてのパブリックイメージと、社会的な問題に対するジャーナリズムの責任との間で、出版社の姿勢が問われる形となりました。村瀬氏の指摘は、単なる一タレントのインタビュー評にとどまらず、日本の報道・出版界が直面する課題を示唆しています。