マスク氏、政治から事業回帰も試練続く スペースX爆発など

米実業家イーロン・マスク氏が自身の事業への注力を再び強める中、彼の主要企業の一つである宇宙企業スペースXの「スターシップ」ロケットが、6月18日に地上で行われた定期試験中に爆発し、炎上する事態が発生しました。これは、スターシップにとって4回連続の失敗となります。マスク氏の他の企業や彼自身のブランドは、過去の政治的関与によって生じたダメージからの回復に苦戦しており、今回の失敗はさらなる逆風となり得ます。

スペースXのスターシップ地上試験中の爆発炎上スペースXのスターシップ地上試験中の爆発炎上

スターシップは、米航空宇宙局(NASA)が目標とする2027年までの米国人宇宙飛行士の月面再着陸計画を支援する役割を担っています。NASAはこのミッション遂行のため、スペースXに最大約40億ドル(約5800億円)を支払う契約を結んでいます。スペースXは、今回の爆発以前に行われた3回の打ち上げ試験において、一部の要素では成功を収めたものの、いずれも飛行中に失敗を喫していました。

スペースXの開発哲学「迅速な反復開発」

スペースXは長年にわたり、試験・開発段階での失敗は一見すると大惨事のように見えるかもしれないが、実際にはそうではないと主張してきました。同社は「迅速な反復開発(rapid iterative development)」と呼ばれる独自の設計哲学を採用しており、比較的低コストで試作機を多数建造し、試験飛行を頻繁に実施することを重視しています。スペースXは、綿密な計画に基づき順序立てて時間をかける従来の工学手法に頼るよりも、この反復的な手法のほうが、より迅速かつ安価なロケット設計を模索し、最終的な成功をより確実なものにできると考えています。

政治活動からの回帰と事業・評判への影響

しかし、スターシップの激しい爆発は、マスク氏がトランプ政権下での物議を醸した任期を終え、事業の世界に復帰し、自身の評判回復に努めているまさにその最中に起きました。数カ月にわたりホワイトハウスの最高顧問を務め、政府効率化省(DOGE)を率いた後、マスク氏は現在、政府関連の常勤業務から一歩退き、自身が率いるテスラなどの企業に改めて集中的に取り組んでいます。特にテスラは、マスク氏とトランプ政権との強い結びつきがイメージダウンにつながり、苦戦を強いられてきました。

事業復帰後、マスク氏はテスラの安全性と信頼性のイメージ向上に尽力しています。同社は6月22日にテキサス州オースティンで無人運転サービス「ロボタクシー」の運行開始を目指していますが、初期段階はわずか20台程度の限定的な規模となる見込みであり、マスク氏自身も日程が変更される可能性を示唆しています。

サービス開始に先立ち、テキサス州の複数の議員は、自動運転に関する新たな州法が施行される9月まで開始を延期するよう要請しています。また、ビジネスインサイダーの報道によると、テスラはメンテナンスのため、オースティン工場での「サイバートラック」と「モデルY」の生産ラインを1週間にわたり停止しました。こうした生産停止は今年に入って3度目となります。これらの要因を受け、テスラの株価は今週下落したものの、その後やや持ち直しています。自動車市場調査会社JATOのレポートによれば、テスラの販売が急落している欧州市場では、中国の自動車メーカーBYDが電気自動車(EV)の販売台数で初めてテスラを上回るなど、競争環境も厳しさを増しています。

AI企業xAIの財務状況を巡る論争

マスク氏は、自身が設立した人工知能(AI)企業xAIでも、難題を抱えていると報じられています。ブルームバーグ通信は、xAIについて、AIモデルの構築コストが「限られた収益を上回っており」、「毎月10億ドル(約1450億円)を文字通り溶かしている」と詳細に報じました。

マスク氏はこの報道に対し、公に反論。「ブルームバーグはでたらめだ」と自身のSNSであるX(旧ツイッター)に投稿し、報道内容を否定しました。

失敗に対するマスク氏の公開での反応

マスク氏は、自身のAIチャットボット「Grok」が政治的動機に基づく暴力に関するファクトチェックを投稿した際にも、その内容に公然と反論しています。Grokが示した「データは2016年以降、右翼による政治的暴力がより頻繁かつ有害になっていることを示している」という回答は、公開されているほとんどのデータと一致するものでした。しかし、マスク氏はこれに同意せず、「これは客観的に見て誤りであり、大失態だ。Grokはレガシーメディアのまねをしているのだ。改善に取り組んでいる」と投稿しました。

マスク氏は、特にスペースXにおける失敗については、比較的軽く見ている姿勢を示しているようです。彼は先月、スターシップが来年末までに火星への初飛行を行うことを期待していると述べていましたが、今回の連続失敗により、この目標が実現する可能性はますます低くなっています。

スターシップの最新の爆発を受け、マスク氏は自身のXに「かすり傷程度だ」と投稿し、「RIP Ship 36(Ship 36、安らかに眠れ)」というテキストとミーム(インターネット上で拡散する画像やジョーク)を投稿して反応しました。

あるユーザーがGrokに対し、なぜマスク氏がミームを投稿するのかと尋ねたところ、Grokは「タイミングから判断すると、6月18日に発生したスペースXのスターシップ爆発に関するユーモラスなコメントであり、特定の人物を狙ったものではなさそう。マスク氏はこうした失敗を受け流すためにミームをよく使う」と回答しました。このGrokの回答に対して、マスク氏は「的中」を示す絵文字でリアクションしています。

出典

◇ 本稿はハダス・ゴールド記者とジャッキー・ワトルズ記者による分析記事です。