スピード違反は何キロから捕まる?弁護士が解説する「グレーゾーン」と罰則の境界線

多くのドライバーが一度は経験するスピード違反。取り締まりを受ける際に思わず口にする「なんで自分だけ」という言葉は、法定速度と実際の走行速度の間にしばしば見られる乖離を物語っています。真面目に運転していても無意識のうちに速度超過してしまうことは珍しくなく、一体何キロオーバーからが取り締まりの対象となるのか、多くの人が疑問に感じています。「10km/hオーバーはセーフ」といった都市伝説の真相や、速度超過における「グレーゾーン」の実態について、法律の専門家が解説します。

自動車が道路を走る様子。スピード違反のグレーゾーンと罰則について弁護士が解説。自動車が道路を走る様子。スピード違反のグレーゾーンと罰則について弁護士が解説。

法定速度と「現実の速度」の間の乖離

世の中には、法律で定められた制限速度と、実際に多くの車が走行している速度との間に開きがあるという現実があります。例えば「制限速度40km/hの道を40km/hちょうどで走っている車はほとんどいない」といった現象は、多くの運転者が日常的に感じていることでしょう。ドライバーは、この法規と実態のモヤモヤした乖離を意識しながらハンドルを握っています。

ドライバーが意識する「二つのライン」の正体

多くのドライバーは、なんとなく「速度超過も10km/h程度までなら大丈夫だろう」「30km/hを超えるとさすがにまずい」という、ぼんやりとした二つの境界線を意識しているのではないでしょうか。この意識は、道路交通法が定める速度超過のペナルティ体系に由来しています。罰則は速度超過の程度に応じて段階的に定められているのです。

青キップ?赤キップ?速度超過のペナルティ区分

一般道30km/h未満は「反則行為」で青キップ

道路交通法では、一般道で30km/h未満(高速道路では40km/h未満)の速度超過を「反則行為」と定めています。この場合、いわゆる青キップ(交通反則告知書)が切られ、反則金の納付が求められます。これはしばしば「罰金」と呼ばれることがありますが、正確には「反則金」という名の行政罰です。交通反則通告制度に従い、告知後7日以内に反則金を支払えば手続きは完了します(ただし、反則点数は加算され、不払いの場合は刑事手続きに移行します)。

一般道30km/h以上は「非反則行為」で赤キップ

一方、一般道で30km/h以上(高速道路で40km/h以上)の速度超過は「非反則行為」となり、赤キップが切られます。これは「もはや反則行為の範囲を超えている」という意味合いで、いきなり「6月以下の懲役または10万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります。「30km/hオーバー」が多くの運転者にとって意識的な分水嶺となっているのは、反則金(行政処分)で済むか、罰金や懲役(刑事処分)になるかという、この明確な区別があるためでしょう。

非反則行為となった場合の刑事処分

非反則行為として刑事処分になる場合、速度超過がおおむね80km/hを超えるような悪質なケースでは、執行猶予付きの懲役刑(公判手続き)となるのが一般的です。それ未満の場合は、罰金(略式命令手続き)で済むことが多いようです。

「10km/hのバッファ」は存在するのか?

では、一般の運転者が最も関心を寄せる「反則行為として検挙されるのは何キロオーバーからか」という点についてはどうでしょうか。形式的には、制限速度を0.1km/hでも超えれば法規違反となります。しかし、巷では「制限速度+10km/h程度までは、実際の取り締まりが見送られるケースが多い」とも言われています。これは、警察が単に寛容であるというよりも、反則行為の認定を明確にするためであろうと、法律の専門家は指摘します。速度制限のように、法規上のルールと実態の乖離がこれほどはっきり存在している交通ルールは、一時停止や通行区分など他の規則ではあまり見られません。

スピード違反における取り締まりの基準や罰則は、法定速度からの超過キロ数によって明確に区分されています。特に一般道で30km/h、高速道路で40km/hという超過は、行政罰(反則金)で済むか刑事罰(罰金・懲役)となるかの大きな分かれ目です。一方、「10km/h程度なら見逃されることがある」という認識は広く存在しますが、これは法的な根拠ではなく、取り締まりの明確性を確保するための実務上の側面として捉えるべきでしょう。常に法定速度を守ることが、安全運転と予期せぬトラブルを避けるための基本です。

出典

出典: 中村真 著『世にもふしぎな法律図鑑』(日本経済新聞出版)