デスクワークなどで長時間同じ姿勢をとり続けることが多い現代人は、体の柔軟性が失われ、痛みやコリを感じやすくなっています。こうした体の不調は、「ファシア」と呼ばれる組織の機能低下が原因かもしれません。最新の研究に基づいたファシアの役割と、痛みを解消するために効果的なアプローチについて、専門家が解説します。この記事では、体の硬さや痛みの根本原因であるファシアのメカニズムを理解し、むくみを改善することがなぜ重要なのかを探ります。
体を滑らかに動かす鍵「ファシア」とは
「ファシア」とは、私たちの体内にある臓器、骨、血管、そして筋肉などを包み込み、全身に網の目のように広がっている結合組織の総称です。特に筋肉と筋肉の間にある疎性結合組織は、互いの滑らかな動き、すなわち「滑走性」を維持するために重要な役割を果たしています。この滑走性を可能にしているのが、ファシアの持つ「ゆるゆる」とした柔軟性です。近年の研究では、このファシアの健全な状態が、体のスムーズな動きに不可欠であることが明らかになっています。
なぜファシアは硬くなり、痛みを生むのか
しかし、現代の生活習慣、特に座りっぱなしの仕事や慢性的な運動不足は、ファシアからその本来の「ゆるさ」を奪ってしまいます。ファシアが硬くなったり、周囲の組織と癒着したりすると、筋肉の「滑走性」が失われ、その結果として体の硬さ、コリ、そして痛みといった症状が現れます。特に肩甲骨周辺の筋肉につながるファシアは硬くなりやすく、多くの人が肩こりなどの頑固な痛みに悩まされる一因となっています。
体の硬さや痛みに悩む現代人のイメージ写真
手術後の痛みが消えない理由もファシアにある可能性
腰、膝、肘などの手術を受けたにも関わらず、痛みが続くケースがあります。神経への圧迫が解消され、関節の形状が正常に戻ったにもかかわらず痛みが残るのはなぜでしょうか。レントゲンやMRIでは捉えられない痛みの原因として、ファシアの硬化が挙げられます。手術前から痛みで体の動きが制限されていた場合、背骨や関節周囲のファシアが硬くなり、筋肉の動きが悪化していることがあります。これにより、むくみが生じやすく、周囲の血流も滞ってしまいます。また、関節以外の部位に異常な毛細血管(いわゆるモヤモヤ血管)が発生している場合も痛みの原因となることがあります。画像診断で異常がない場合は、安静にするのではなく、積極的に体を動かすことが痛みの軽減につながることがあります。
コリや痛みは「むくんで硬くなったファシア」のサイン
日常的に同じ姿勢を続けがちで、あまり動かさない上半身などのファシアには、多かれ少なかれむくみが生じています。このむくみによってファシアの本来の「ゆるさ」が失われ、コリや痛みが引き起こされると考えられています。つまり、体のコリや痛みを感じるということは、ファシアがむくんで硬くなっている状態のサインなのです。多くの人は、コリや痛い部分を反射的に揉んだり叩いたりして解消しようとします。しかし、肩こりの場合と同様に、痛気持ちいいと感じるからといって強く揉んだり叩いたりすることは、ファシアを傷つけ、さらに硬くしてしまう可能性があります。その場では楽になったように感じても、長期的にはさらなるコリや痛みに悩まされることになりかねません。
コリや痛みを改善する鍵は「むくみを流すこと」
コリや痛みに対して、単に揉んだり叩いたりする方法では根本的な解消は難しいと言えます。重要なのは、むくんで硬くなったファシアを「ゆるめる」ことです。具体的には、むくみを改善し、滞った体液の流れを促すことで、ファシアの柔軟性を取り戻し、筋肉の動きをスムーズにすることが目指されます。コリや痛みの解消には、ファシアのむくみに着目し、適切なケアを行うことが効果的であることが専門家によって指摘されています。
参考文献
- 遠藤健司・奥野祐次『こんなに痛いのにどうして「なんでもない」と医者に言われてしまうのでしょうか』より抜粋・編集