もう少し評価の声が盛り上がってもいいのではないか……。現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』で主人公の夫役を演じている俳優・北村匠海(27)について、気の毒に感じるという声がある。同ドラマは、『アンパンマン』の作者であるやなせたかし氏とその妻・暢氏をモデルにした物語だ。視聴率こそ他を圧倒するほどではないものの、インターネット上での記事や視聴者のコメントでは概ね好評を得ている。
『あんぱん』成功の鍵は豪華脇役陣
『あんぱん』の評判が高い最大の理由は、その豪華な脇役陣の充実ぶりにあると言える。主人公・のぶの妹を演じる河合優実(24)、夫役の中島歩(36)、母役の江口のりこ(45)、パン職人役の阿部サダヲ(55)、やなせたかしのモデルとなる嵩の伯父役の竹野内豊(54)、母役の松嶋菜々子(51)、そして弟役の中沢元紀(25)など、実力派俳優が多数出演しており、「枚挙にいとまがない」とはまさにこのことだ。
あるテレビ誌編集者は、現在の状況を次のように分析している。
「主演の今田美桜さん(28)を、経験豊富な周囲の俳優たちが巧みにサポートすることで、彼女自身の努力や魅力が主人公のキャラクターと見事に調和しています。これは、プロフェッショナルな脇役が少なく、結果的に主人公の演技経験不足が際立ってしまった前作『おむすび』とは明確な違いです。」
主人公を支える「最も重要な存在」北村匠海
しかし、この豪華な布陣の中で、意外にもその貢献が見過ごされがちなのが、主人公にとって最も重要な存在ともいえる役柄を演じている北村匠海ではないか、と前出の編集者は指摘する。
「北村さんが演じる嵩(たかし)は、物理的にも精神的にも主人公のぶと最も深く関わる役どころです。もし彼の演技が不十分であれば、今田さんの魅力も十分に活かされません。また、物語の展開によっては主演と言っていいほど単独での重要なシーンも多いため、彼の演技力が低いと、ドラマ全体の質が損なわれてしまう可能性があります。しかし、北村さんの演技は、現時点では素晴らしいの一言に尽きます。」
NHK朝ドラ『あんぱん』で主人公の夫・嵩を演じる北村匠海
写真:FRIDAYデジタル
実際、嵩が出征し、彼の視点からの描写が増え、物語の中心となった頃から、視聴率は16%台に乗るなど、安定した推移を見せている。編集者は「『じゃじゃーん!』という派手な演技ではないものの、北村さんの堅実で内省的な演技が、戦争という重いテーマを視聴者にしっかりと届けられている証拠だと思います」と評価する。
視聴率上昇に貢献?彼の演技が見逃される理由
それにも関わらず、新たに登場して謎多き存在感を放つ先輩兵士役の妻夫木聡(44)や、「本当はずっとのぶが好きだった」と涙ながらに告白し、視聴者の心を掴んだ弟役の中沢元紀など、他の俳優が話題の中心になりがちだ。なぜ北村匠海は、これほどまでに脚光を他の共演者に持っていかれやすいのだろうか。
あるベテランのインタビューライターは、その理由として北村自身のパーソナリティを挙げ、次のように語る。
「北村さんは、ルックスも演技力も非常に優れており、10代前半の頃から業界内ではかなりの逸材として注目されていました。ブレイクも経験していますが、どこか典型的な『陰キャ(インドア系キャラクター)』で、控えめな雰囲気を纏っているため、共演者が評価を独り占めしやすい傾向があります。」
この性格が影響し、大ヒットした主演映画『君の膵臓をたべたい』や、社会現象ともなった『東京リベンジャーズ』シリーズで主演を務めても、今ひとつ幅広い層に認知されきれていない印象だという。ドラマにおいて、単独での主演の座を掴みきれていない背景には、このような要因もあるのかもしれない。
控えめな「陰キャ」気質が影響か?
実際に北村を取材した経験のあるライターたちからは、「作品や共演者のことについては積極的に話すのに、自分のことになると急に口数が少なくなり、控えめになる」という声が多く聞かれるそうだ。
しかし、そんな彼が一度だけ、熱く語った“自分エピソード”があるという。それは一体何だったのだろうか。
「彼が10代の頃から何度も取材してきましたが、『俺が俺が』という風に話すところを見たことがありません。いつも共演者や監督などを称賛している印象です。ただ一度だけ、休日の過ごし方を聞いたら、カレー作りに夢中になっていることを本当に熱く語ってくれたんです。スパイスを一から調合するなど、作り方についても詳細に話してくれて、さらには『いつか美味しいカレーとコーヒーのお店を出したい』とまで語ったので、珍しいなと感じたのを覚えています。」(同前)
ところが、その話のオチもまた彼らしかったという。「そこに仲間が集まってくれたら嬉しい」と、結局は他者への思いやりが先行するものだったため、「ああ、やっぱり彼らしいなと思いました」とそのライターは語る。
どこまでも自分よりも周囲を優先する北村匠海。彼が相手役だからこそ、主演の今田美桜もより一層輝けるのかもしれない。
作品全体を見る視点と、内面からにじみ出る演技
同志社女子大教授でメディア評論家の影山貴彦氏は、北村匠海の俳優としての特質を次のように分析している。
「北村さんの表現力は非常に高いレベルにあります。しかし、それが表面に強く出るというよりは、内面に溜め込んだものがじわじわとにじみ出てくるような、独特の演技スタイルだと思います。」
影山氏はさらに、「北村さんは自分の演技が一番だとは考えていないでしょう。作品全体の中で、自分自身がどのような役割を果たすべきかを常に考えている人だと思います。作品や他者の演技については語りたがるのに、自分のことをあまり語らないのは、常に作品全体を広い視野で見ているからではないでしょうか」と、彼のプロフェッショナリズムと謙虚な姿勢を評価する。
現在、『あんぱん』の中で、北村演じる嵩は食糧難に苦しみ、餓死寸前という極限状態を体験している。第59話で描かれた、妻夫木聡演じる八木上等兵の「弱いものが戦場で生き残るには卑怯者になること」という言葉を、今後さらに噛みしめるような出来事もあるかもしれない。物語はこれからが正念場であり、北村匠海の演技力が見せ場を迎えることになるだろう。
これまでは、好きだったのぶに最後まで思いを伝えられないなど、やや「へたれ」なキャラクターとして描かれ、他の登場人物に比べて影が薄いと感じる場面もあった嵩。今後の展開で、北村匠海がこの複雑な役柄をどのように演じきるのか、その演技に改めて注目が集まる。
FRIDAYデジタル / Yahoo!ニュース