灼熱の太陽が照りつける広島市の平和記念公園。この地は、米軍による原爆投下でさく裂した爆心地に近く、34万4306人の犠牲者の名簿を納めた「原爆死没者慰霊碑」が静かにたたずんでいます。6月19日、天皇陛下と雅子さまはここを訪れ、慰霊碑に供花し、深く拝礼されました。翌20日を含む今回の広島県ご訪問は、両陛下が入念な準備を重ねて臨まれたものでした。
皇室担当記者は、今回の訪問の意義について次のように語ります。「両陛下は被爆者の方々の苦難に深く思いを寄せ、懇談相手に関する詳細な情報を収集された上で臨まれたと伺っています。4月の硫黄島、先日行われた沖縄ご訪問と同様、単に『戦後80年の節目だから訪問する』のではなく、その日程や真摯な姿勢を通して、意識的にそのことを示されているように感じます。昭和天皇、上皇陛下の時代から受け継がれてきた『慰霊の旅』の側面に加え、戦争の記録や記憶、平和の尊さを次世代へと伝えていくことにも、今年の『旅』の目的を置かれているようです。」
被爆遺構展示館と広島平和記念資料館を視察された両陛下は、予定されていた時間を超過して熱心に展示をご覧になりました。資料館内では、90代の被爆者の方々や、高齢になった当事者に代わって凄惨な体験を語り継ぐ若い「伝承者」と懇談されました。
資料館視察と被爆者・伝承者との懇談
原爆死没者慰霊碑での拝礼後、両陛下は3年前に開館した被爆遺構展示館、そして広島平和記念資料館を視察されました。
広島平和記念公園内の被爆遺構展示館を視察される雅子さま
資料館では、90代の被爆者や、被爆体験を次世代に語り継ぐ若い伝承者との懇談が行われました。両陛下は一人ひとりの話に丁寧に耳を傾けられました。
被爆者の声:才木幹夫さんの証言
懇談に参加した才木幹夫さん(93歳)は、旧制広島第一中学校2年生だった1945年8月6日、爆心地から2.2キロ離れたご自宅で被爆されました。才木さんは両陛下との懇談をこう振り返ります。
「両陛下は資料館を、予定時間をオーバーしてまで、大変丁寧にご覧になっていました。私たちとのご懇談の際も、お一人お一人に丁寧に対応してくださいました。特に印象に残っているのは、両陛下のお優しさです。私たちの話を『どんなに時間がかかっても、とことん聞きたい』というお気持ちと、そして人を思いやるお心が強く感じられました。今回の両陛下のご訪問は、『核はだめ、戦争はだめ』というメッセージを改めて広く伝えるきっかけを作っていただきました。懇談の翌日も資料館で、午前と午後の2回、他県から訪れた小学生に話をしましたが、両陛下がいらしたこともあり、いつも以上に質問が多く寄せられました。」
2016年に学習院女子中等科の修学旅行で広島を訪れ、原爆ドームをご覧になる愛子さま
両陛下のご感想と皇后さまの広島再訪
初日の日程を終えられた両陛下は、側近を通じて「これまでのつらい体験や平和の尊さを自ら語り継いでおられることに、深い敬意を抱きました」とのご感想を公表されました。雅子さまにとっては2000年11月以来、25年ぶりの広島県ご訪問となりました。平和記念公園の原爆慰霊碑前では、地元の小学校2校の児童たちが両陛下を出迎えました。未来の平和を担う子供たちとの交流を、雅子さまも心待ちにされていたと言います。
まとめ
天皇皇后両陛下の広島ご訪問は、単なる慰霊の枠を超え、戦争の記憶と平和の尊さを次世代に継承していくことへの強い意志を示す機会となりました。被爆者や伝承者との温かい懇談、そして子供たちとの交流を通して、「核も戦争もだめ」というメッセージを改めて国内外に発信されたと言えるでしょう。両陛下の真摯な姿勢は、平和への思いを新たにするきっかけを多くの人々に与えました。