緑に囲まれた閑静な住宅街に突如、銃声が響いた──。6月14日、千葉県警旭署は自称タイ国籍で住居不詳のアルバイト、ソンティラ・ポンサトーン容疑者(31)を公務執行妨害と殺人未遂の容疑で逮捕した。ポンサトーン容疑者は警察官に肩を撃たれて負傷していた。この事件は、なぜ発生したのか、その背景を探る。
公務執行妨害と殺人未遂の疑いで送検されるソンティラ・ポンサトーン容疑者。シャツの下には負傷した肩の包帯が見える
職務質問から事件への展開
事件は6月13日午後4時ごろにさかのぼる。パトロール中だった2名の警察官が、歩道上に縦列駐車されている車3台を発見した。うち2台の車にそれぞれ男が乗っていたため、警察官は職務質問を開始した。
すると、乗っていた男(32)の一人が突然逃走を図り、これを取り押さえようとした警察官に暴行を加えたため、公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された。
その逮捕手続きを行っていた最中、もう1台の車を運転していたポンサトーン容疑者が車を急発進させ、警察官らに向かって突っ込んできた。身の危険を感じた警察官の一人が拳銃を3発発砲した。ポンサトーン容疑者の車はそのまま逃走したが、約3時間後に市内に乗り捨てられているのが発見された。
ポンサトーン容疑者はその後、午後8時20分ごろに「警察官に撃たれた」と知人に付き添われて旭署に出頭した。右肩を負傷しており、病院に搬送されたが、命に別条はなかった。警察の取り調べに対し、容疑を一部否認し「殺すつもりはなかった」と供述しているという。
カメラを睨むタイ人男性。警察官を轢こうとして撃たれたポンサトーン容疑者の素顔
逃走の理由と背景にある社会状況
今回の警察官による拳銃の使用について、千葉県警は「現段階では適正な拳銃の使用だと考えている」との見解を示している。何気ない職務質問が、公務執行妨害、殺人未遂、そして拳銃の発砲という重大な事件に発展した背景には何があるのだろうか。
最初に公務執行妨害で逮捕された男がなぜ逃げようとしたのかは明らかにされていないが、元神奈川県警の刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、外国人の職務質問への対応についてこう語る。
「逃げようとしたということは何かやましいことがあるんじゃないかと思うのが普通です。しかし、外国人の場合は旅行者なのか定住者なのか、持っている在留資格にもよりますが、警官に職務質問をされたら、まずびっくりしてしまうかもしれません。東南アジアでは警察官が信用できない国も多いですから、何もしていなくても逃げてしまう可能性はあります」
また、小川氏は外国人の職務質問の難しさにも言及する。「言葉の壁もあるし、日本語が分からないふりをするずるいヤツもいる。タイ人だったら見れば外国人だって分かりますから、それでも声をかけたということは、やはりその警察官なりに声をかけなきゃという根拠があったんだと思いますよ」
今回の事件の背景として、日本におけるタイ人の「不法残留」の問題も指摘されている。2025年1月の時点で、タイ人の不法残留者数はベトナムに次いで2位となっている。特に2024年には、出入国在留管理局による入国拒否者数がタイ人が最多の1415人にのぼり、前年度比28.5%の大幅増となった。その主な拒否理由は「入国目的が不審」だという。
さらに、同年に難民認定申請をしたタイ国籍者は2128人と、前年の184人から激増している。これは韓国での不法滞在外国人の摘発が強化されたことを受け、タイの不法就労ブローカーの矛先が日本へ向かっている影響があるとも指摘されている状況だ。
今回の事件のポンサトーン容疑者が不法残留者であったかどうかは現時点では不明だが、たとえそうでなかったとしても、こうした社会情勢の中で、彼らが「色眼鏡で見られる」日常があったことも想像できる。事件の背景には、単なる偶発的な出来事ではない、より複雑な事情が隠されているのかもしれない。
職務質問をきっかけに発生した一連の出来事は、公務執行妨害、殺人未遂、そして警察官による発砲という重大な事態に発展しました。容疑者の逃走や過去の事例、そしてタイ人の不法滞在や入国管理を巡る社会的な背景が指摘されています。この事件は、日本社会が直面する外国人問題の一端を示しており、今後の捜査と原因究明が待たれます。
出典:FRIDAYデジタル