6月22日に投開票が行われた東京都議会議員選挙で、自由民主党は大幅な議席減となり、大敗を喫しました。裏金問題の影響もあり、非公認で当選した3名を追加公認しても獲得議席は選挙前の30から21にとどまり、2017年の23議席を下回り過去最低の結果となりました。都連会長の井上信治氏は「参院選も厳しいことに変わりはない」と述べ、来たる7月の参議院選挙に向けた党勢の低迷に強い危機感を表明しています。そうした中、自民党は参院選の公約の一つとして、国民への2万円給付を掲げ、票獲得へなりふり構わない姿勢を見せています。
都議選の応援演説を行う自民党の石破茂氏
自民党の「2万円給付」案とは
自民党が参院選公約として打ち出した「国民一律2万円給付」案は、物価高騰による国民生活の負担軽減を名目としています。具体的には、全ての国民に一律2万円を給付し、さらに子供や非課税世帯の大人には追加で2万円を加算するという内容です。党は同時に、この給付が消費を喚起し経済を活性化させる効果も期待するとしていますが、世論の大半はこの政策を選挙対策としての「バラマキ」と見ています。自民党は今年4月にも一人当たり5万円の給付金案を検討したものの、批判的な世論を受けて取り下げていました。消費減税などを公約に掲げる野党(立憲民主党や国民民主党など)に対し、目玉政策に欠けていた自民党が、給付金案を再び持ち出した形です。小野寺五典政調会長はバラマキであることを否定していますが、これまでの経緯を見れば、国民の多くが選挙対策だと受け止めるのは当然と言えるでしょう。
データが示す給付金の消費効果
この給付金が国民経済にとってどれほど意味を持つのかが重要な焦点となります。しかし、過去のデータは、給付金の多くが消費活動に使われず、結果として経済対策としての効果が限定的であることを示しています。コロナ禍の2020年に実施された「特別定額給付金」(一人当たり一律10万円)がその最も顕著な例です。この給付金は申請者に対し予定額の99.7%が支払われ、ほぼ全ての世帯に行き渡りました。その経済効果について、内閣府が詳細な分析(「特別定額給付金が家計消費に与えた影響」)を行っています。分析によると、給付金支給から5週前から10週後までの期間における累積の消費増加効果は、給付額のわずか22%にとどまりました。別のデータを用いた追加検証では17%という結果も出ており、給付額のうち実際に消費に回ったのは2割程度だったと結論付けられています。家計簿アプリ「マネーフォワードME」のデータを使った別の検証でも、6週間で確実に消費として確認できた支出は6%に過ぎないという結果が得られています。これらのデータは、高額な給付が行われても、その大部分が消費ではなく貯蓄に回る傾向が強いことを明確に示しています。
貯蓄に回る資金、経済活性化への疑問符
一方、2020年における2人以上の勤労者世帯の1世帯当たり貯蓄資産の合計額は1791万円となり、前年に比べて36万円(2.1%)増加しました。これに対し、2019年の増加額は3万円(0.2%)に留まっていました。コロナ禍で消費活動自体が停滞していた影響もあるものの、その後も貯蓄は増加の一途をたどり、経済活動が正常化した2023年、2024年に入ってもその残高は増加傾向にあります。この事実は、給付金が国民の懐に入っても、それが直接的な消費の拡大に繋がらず、多くが将来への備えとして貯蓄に回されてしまっている現状を裏付けています。特別定額給付金のような10万円という比較的大きな額の給付でさえ十分な経済効果が得られなかったことを踏まえると、今回の2万円給付案が、物価高に苦しむ国民の負担を実質的に軽減し、同時に低迷する国内経済を活性化させる有効な手立てとなるかについては、データに基づけば強い疑問符がつかざるを得ません。
まとめ
東京都議会議員選挙での厳しい結果を受け、自民党が参議院選挙に向けて打ち出した2万円給付案は、物価高対策および経済活性化を名目としていますが、過去の給付金に関するデータ(内閣府分析、家計データ等)は、給付金が消費ではなく貯蓄に回る傾向が強いことを示しています。2020年の特別定額給付金の例では、消費に回ったのは給付額の2割にも満たず、同時期以降、家計貯蓄は顕著に増加しています。これらの分析結果は、今回の2万円給付案も、経済対策としての実効性は限定的であり、選挙を目前にした有権者へのアピール、「バラマキ」としての側面が強いという見方を補強するものです。データが示すように、給付金が必ずしも意図した経済効果を生むわけではないという過去の教訓を踏まえると、この政策が物価高に苦しむ国民生活の真の助けとなり、経済活性化に繋がるかについては、冷静な検証が必要です。