日韓基本条約60年 和田春樹東大名誉教授に聞く「歴史問題の根源と克服への道筋」

2025年は韓国にとって光復80年、そして日本と韓国の間で国交が正常化されてからちょうど60年を迎える節目の年です。この重要な時期に、日本の代表的な歴史学者であり、長年日韓関係を見つめ続けてきた東京大学名誉教授の和田春樹氏に、日韓基本条約の意義、その抱える問題点、そして今後の両国関係が進むべき方向について話を伺いました。和田氏は、1965年の条約締結当時からその内容に批判的な立場を取り、「日韓基本条約締結反対運動」を主導した経験を持ちます。氏は、条約が両国関係の基礎となった点を一定程度評価する一方で、「1965年体制」には日本の植民地支配の過ちを確認しなかった致命的な欠陥があると指摘し、その是正が不可欠だと強調しました。

日韓基本条約「1965年体制」の意義と根深い問題点

和田氏は、1965年の日韓基本条約とその付随協定が、それまで国家関係が事実上存在しなかった両国間の土台を築いた点では意義深いと述べています。この体制の下、60年間にわたり多くの浮き沈みを経ながらも、両国関係は努力を通じて進化・発展してきました。特に、1995年の村山談話に見られるような、日本の植民地支配と侵略戦争に対する反省の表明は、韓国側の努力が日本を変えてきた大きな成果だと評価します。困難に直面しても、この基盤の上に新たな日韓関係を築く必要があるというのが和田氏の認識です。

しかし、この条約には深刻な欠陥があり、それが日韓関係の悪循環の根源となっています。最大の論点は、1910年の日韓併合およびその後の日本の強制支配に対する両国の歴史認識の相違です。韓国政府は基本条約に、これらが軍事力を用いた不法行為であるという点を含めることができませんでした。特に基本条約第2条の「1910年8月22日以前に大日本帝国と大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」という文言について、韓国側は日韓併合自体が不法無効であったと解釈するのに対し、日本側は植民地支配(日帝強占期)自体は不法ではなかったと解釈しています。この根本的な解釈の不一致が、「事実上、二国間に合意が存在していない条約」という事態を招き、植民地時代の被害者への賠償問題を含む歴史問題が解決しない状況を招いています。

東京大学名誉教授の和田春樹氏、日韓基本条約の重要性を語る東京大学名誉教授の和田春樹氏、日韓基本条約の重要性を語る

請求権協定と個人請求権、そして慰安婦問題

日韓請求権協定は「植民地時代の請求権に関する問題は、完全かつ最終的に解決された」と謳っていますが、和田氏は被害者の個人請求権の問題は終わっていないと断言します。その証拠として、日本政府が2016年の日韓慰安婦合意の際に「和解・癒やし財団」に10億円を出資したことを挙げます。特に慰安婦問題は1965年の協定当時は知られていなかった問題であり、日本政府は新たに確認された被害者に対して責任を果たすべきだと訴えます。請求権協定を完全に新たに締結することは現実的ではないとしつつも、慰安婦や強制動員被害者などに関する内容を一部改善することは可能だと提言しています。

光復80年、日韓国交正常化60年を迎えた日韓関係のロゴ光復80年、日韓国交正常化60年を迎えた日韓関係のロゴ

歴史的課題克服のための提言:解釈の統一

もつれてしまった日韓関係を正常化するためには、日韓基本条約に対する両国の異なる解釈を是正することが出発点になると和田氏は説きます。特に、第2条の「もはや無効」という文言については、不法な韓国と日本の併合自体が無効であるとする韓国側の解釈に従うことが適切だと主張します。日本は、日韓併合が合法的な条約ではなく、占領軍の力を利用して強制されたものであるという点を認めなければならない、としています。

60年が経過した条約の根幹を揺るがすことは容易ではないという見方に対し、和田氏は「可能だと思う」と反論します。その根拠として、日本政府自身が過去に侵略戦争を反省した村山談話(1995年)や、菅直人首相(当時)による日韓併合100年にあたっての痛切な反省とお詫びの表明(2010年)など、歴史認識に関する前向きな姿勢を示してきたことを挙げます。これらの認識を、日本政府が国家と国民の意思として再確認することが必要だと強調しました。

朝鮮半島の「唯一の合法政府」解釈と北朝鮮との関係

基本条約第3条の「大韓民国政府は、(…)朝鮮にある唯一の合法的な政府であることが確認される」という条文についても、日韓間での意見の相違が続いています。韓国政府は大韓民国が「朝鮮半島の唯一の合法的な政府」であるという立場ですが、日本政府は「朝鮮半島南側の唯一の合法的な政府」であると解釈しています。和田氏はこの点について、日本側の解釈が望ましいと考えを示します。現実的に朝鮮半島に二つの国家が存在することを認め、これを土台に日本も北朝鮮と国交を結ぶべきだと提言します。北朝鮮と日本の国交樹立は韓国にとっても意味があり、過去の戦争と支配の歴史を清算してこそ、東北アジアの平和な未来を引き開く道を作ることができると述べ、これに基づき南北も平和に進むべきだと論じます。

過去の取り組みと李在明新政権への期待

尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権が進めた「第三者弁済案」については、企業からの寄付金で強制動員被害者に賠償するという形式そのものに危険性があると指摘します。この案は日本側からの自発的かつ適切な寄付が前提であるべきにもかかわらず、日本の企業からの呼応がない状況を問題視し、尹前大統領が頭を下げるだけで終わったと考えているようだと述べ、日本も責任を感じるべきだと強調しました。

朴槿恵(パク・クネ)政権期に設立された慰安婦被害者支援事業「和解・癒やし財団」については、解散後に残った基金(約5億円)に韓国政府が相応の資金を出し、誰もが受け入れ可能な慰安婦問題の国際研究所を設立することを個人的には望むと述べました。その建物の前に「平和の少女像」を設置すれば良いだろうと具体的なイメージを示しました。

韓国では李在明新政権が発足し、今後の日韓関係進展への期待が高まっています。和田氏は李在明政権に期待を寄せ、韓国の最近の大統領選で民主主義が勝利したと評価しました。李大統領が日本の石破茂首相と会談することは、日韓間の歴史的な機会になるとし、日韓基本条約60年を迎え、両首脳が共同声明を出すことを提案しました。

共同声明にどのような内容を含めるべきかについて、和田氏はまず、両首脳が「1965年体制」の問題点を評価した上で、今後両国が進む方向についての希望を含める必要があると述べます。さらに、問題となっている日韓条約の解釈を一つにまとめる考えを加えるべきだと強調しました。これにより、日韓の過去の問題の最初の糸のもつれを解きほぐすことができれば、未来を語ることができるはずだと締めくくりました。

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