参院選を目前に控え、石破茂首相(68)が打ち出した「現金バラマキ」案が世論調査などで不評を買っている。国民の反応が冷ややかな中、野党第1党である立憲民主党の野田佳彦代表(68)は、内閣不信任案の提出という有力な対抗手段を用いることなく、国会は閉会した。この一連の終盤国会で繰り広げられた政治劇は、「大いなる茶番劇」とも評されている。
現金給付案の復活とその詳細
不信任案が見送られた一方、国会閉会後も注目を集めるのが、石破首相が表明した現金給付案だ。この案では、国民1人あたりに現金2万円を給付し、さらに住民税非課税世帯の大人とすべての子どもに対しては、それぞれ2万円ずつ上乗せして計4万円を配る方針が示されている。この方針は、自民党と公明党が参院選の公約として掲げる予定だという。
実は、現金給付案は4月にも一度浮上したが、「バラマキ」であるとの批判が強く、その時は見送られた経緯がある。にもかかわらず、なぜ今になって再びこの案が息を吹き返したのか、その背景には党内の事情があるようだ。
復活の背景と党内力学
今回の「現金給付案復活」を主導したのは、財務省出身である木原誠二選挙対策委員長だと指摘されている。参院の改選組議員が「なんとかしてくれ」と強い要望を上げたことに対し、松山政司参院幹事長が、同じ旧宏池会出身の木原選対委員長に働きかけたと見られている。さらに、木原選対委員長は、同じく旧宏池会出身である林芳正官房長官にも事前に根回しを行っていた、という情報も聞かれる。
最終的に、党内で慎重論も存在したものの、森山裕幹事長もこの給付案復活を了承した。
石破茂首相、参院選公約の現金給付案を巡り注目の的
森山幹事長の慎重姿勢と最終的な了承
ただし、森山幹事長は当初から一貫して現金給付案に対して慎重な姿勢を示していた。4月に給付金案が国民からの反発を受けて見送られた際に、森山幹事長はその結果にショックを受けていたという。周囲の関係者に対しては、「ウケが悪いならやめたらいい」といった趣旨の発言も漏らしていたようだ。党内の複雑な調整を経て、最終的に了承に至った経緯がうかがえる。
給付額2万円の根拠と「後付け」批判
森山幹事長は、国民1人あたり2万円という給付額について、次のような説明を行っている。総務省が公表している家計調査を基に算出すると、食料品にかかる1年間の消費税負担額が国民1人あたり約2万円になるという。したがって、この2万円を給付することで、野党が主張する消費税の軽減税率を時限的に0%にするという政策にも対応できると説明した。さらに、減税政策では国民に届くまでに時間がかかるのに対し、給付金であればより早く対応できる迅速性も利点として挙げた。
しかし、件の家計調査を基に計算すると、外食分も含めた食料品にかかる消費税額は1年間で約3万2000円となる。森山幹事長の説明する2万円という額では、消費税負担額を全てカバーするには少々不足している状況だ。前出の政治部デスクは、森山幹事長が2万円という額を「1年間の食費にかかる消費税の負担額」と説明しているのは、あくまで「後付けの方便」にすぎない、と指摘する。実際には、税収の上振れ分3兆円の枠組みの中で、給付総額を収めるために2万円という数字が決められたというのが実態に近い、との見方を示している。
まとめ
参院選を控える中で、石破茂首相が打ち出した現金給付案は国民の支持を得られていない。この政策は党内の一部勢力、特に参院選を戦う議員からの強い要望と、財務省出身者を中心とした主導によって再び浮上したものである。森山幹事長は当初慎重だったものの最終的に了承したが、給付額の根拠とされる消費税負担額の説明には、税収の上振れ分という政治的な枠組みありきで金額が決定されたのではないかという批判の声も上がっている。一方、野党第一党である立憲民主党が内閣不信任案の提出を見送ったことも含め、今回の国会終盤の動きは、国民の期待とは乖離した政治の「茶番劇」と映った側面も否定できない。