「対面配達は追加料金」へ 2025年、宅配の標準「置き配」化は何をもたらすか

2025年、日本の宅配サービスが大きな転換点を迎える。国土交通省は「標準運送約款」を改正し、すべての宅配において、受取人が指定した場所に荷物を置く「置き配」を基本的な配達方法とし、配達員から対面で直接受け取る場合は追加料金を徴収する方針を示した。この変更は、単に荷物の受け取り方が変わるだけでなく、物流業界、消費者の行動、さらには都市のインフラや設計にまで影響を及ぼす可能性を秘めている。この制度見直しを深く理解するには、「配達員の負担軽減」といった一面的な捉え方ではなく、日本の輸送資源の配分構造そのものを問い直す視点が必要だ。

置き配とは?その利点と課題

「置き配」とは、配達員が荷物を直接手渡すのではなく、受取人が事前に指定した場所(玄関前、宅配ボックス、ガスメーターの上など)に荷物を置いて配達を完了する方法である。配達員は荷物を置いた後、チャイムを鳴らすか、写真付きの配達完了通知を送るなどしてその場を離れる。この方式の最大の利点は、受取人が不在時でも荷物を受け取れる点にあり、これにより再配達依頼の手間とそれに伴う時間的拘束が解消される。また、配達員との対面接触を避けられるため、感染症対策や対人コミュニケーションを避けたい利用者からも支持を得ている。一方、課題も存在する。最も懸念されるのは、置かれた荷物の盗難リスクだ。実際に玄関先から荷物が持ち去られる事件も報告されている。また、予測不能な天候変化による荷物の水濡れや破損の可能性、指定場所の不明瞭さによる誤配や配達トラブルに繋がるリスクも指摘されている。

標準化される宅配「置き配」のイメージ図標準化される宅配「置き配」のイメージ図

標準化の背景:深刻な再配達問題とラストワンマイル

現在の多くの宅配便料金には、最初の配達だけでなく、1回以上の再配達にかかるコストが実質的に含まれている。これは配送業者にとって非常に不利な非対称性をもたらしている。2025年4月の宅配便の再配達率は約8.4%にも上り、これに対応するために膨大な追加の労力、時間、燃料コストが発生している。この負担は、配達密度が低い地方部や、タワーマンションのように1件あたりの移動や待機時間が長くなる環境では特に深刻となる。再配達が「無料」であることも、受取人に受け取り方法の工夫を促すインセンティブが働かず、結果として配送効率を低下させ、宅配産業全体の労働集約度を高めてドライバー不足を深刻化させる要因となっている。現代の都市物流における最も大きな課題は、中継地点から最終的な戸口までの「ラストワンマイル」の生産性にある。この区間には人的資源と時間が集中的に投入され、とりわけ対面配達には、顧客の在宅時間との同期、呼び出しや確認のための待機時間、エレベーター利用や敷地内の移動といった物理的な移動距離など、定量化可能なコストが必然的に伴う。

再配達問題解消が期待される宅配「置き配」のイメージ再配達問題解消が期待される宅配「置き配」のイメージ

置き配標準化がもたらす物流生産性の向上と経済的合理性

対照的に、「置き配」は玄関先や指定の場所に荷物を置くだけで配達が完了する。時間単価で見れば、配達員が1時間に処理できる件数は対面配達に比べて数倍に向上すると見込まれる。配送完了件数を最大化することは、物流事業者にとって最優先事項の一つであり、置き配を標準的な配達方法と位置づける判断の背景には、このような明確な経済的合理性が存在する。標準運送約款の見直しによる置き配の標準化と対面配達の有料化は、物流業界全体の生産性向上に大きく寄与することが期待される。これにより、限られた輸送資源のより効率的な再配分が進み、深刻化するドライバー不足問題への対策の一助となる可能性もある。この変化は、消費者にとっては利便性の向上と引き換えに、荷物の受け取り方に対する意識変革や、必要に応じた追加コスト負担の検討を迫るものとなる。社会全体として、今回の制度変更が、より持続可能で効率的な物流システムの構築に向けた一歩となるか、その動向が注目される。

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