私が6年前から住むドイツのライプツィヒ市は、ザクセン州において州都ドレスデンと並ぶ重要な都市です。現在の人口は約62万人弱。そのライプツィヒ・ハレ空港を利用する際、動く歩道で出発ロビーへ向かう長い回廊のガラス窓から外を見ると、空港の敷地の一角に見慣れない3機の大型飛行機が駐機しているのが目につきます。
ドイツのライプツィヒ・ハレ空港に駐機されたロシアのヴォルガ・ドニエプル航空の大型貨物機An-124
1年以上前、初めてこの光景を目にした時は何だろうと思いましたが、後にこれらが対ロシア制裁によって帰国できなくなったロシアの航空機だと知りました。詳しく調べてみると、それはヴォルガ・ドニエプル航空が所有する貨物機、An-124であることが判明しました。
旧ソ連が生んだ巨人機 An-124の歴史
An-124は、1970年代後半に旧ソ連のアントノフ設計局によって設計され、ウクライナのキエフで製造された大型輸送機です。「An」はアントノフの略です。この機体が初めて西側諸国にその姿を現したのは、1985年5月のパリ航空ショーでした。当初のソ連の主な目的は軍事用の大型輸送機開発であり、完成当時は世界最大の航空機でした。
冷戦終結後、1991年にソ連が崩壊すると、An-124の一部はロシアのヴォルガ・ドニエプル航空とウクライナのアントノフ航空に売却されました。これらの機体は、主に国際的なチャーター貨物便として活躍しました。2007年時点では、世界中で40機以上が運航されており、ドイツ語版Wikipediaによれば、貨物チャーターの分野で寡占状態を築いていました。
2009年のモスクワの航空ショーでは、ロシア国防省がAn-124の改良型生産計画を発表し、ヴォルガ・ドニエプル社は20機の購入に強い意欲を示しました。しかし、生産拠点を巡るロシアとウクライナ間の対立が生じ、計画は頓挫しました。ヴォルガ・ドニエプル社はライプツィヒに独自の生産工場を建設することも検討したものの、これも実現には至りませんでした。
制裁の代償：ライプツィヒに「置き去り」
現在、ライプツィヒ・ハレ空港に留め置かれているAn-124は、これらの経緯から見ても比較的老朽化した機体であると考えられます。これらの機体が定期整備のためにライプツィヒに滞在していた最中、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発しました。直ちにEUによるロシア機に対する空域封鎖が実施されたため、整備を終えても帰国できなくなってしまったのです。
この事実は、ロシアの航空大手であるヴォルガ・ドニエプル社のトップでさえ、自国軍によるウクライナ侵攻を事前に予測していなかったことを示唆しています。もし予測できていたなら、制裁による空域封鎖を見越して、自社機をロシア国外に留め置くような状況は避けるための措置を講じた可能性が高いでしょう。この特定のケースから、今回の戦争、特にそれに伴う国際的な制裁やその影響が、一般的なロシアの人々にとってはまさに「寝耳に水」、つまり全く予期せぬ出来事であったと想像されます。
まとめ
ドイツのライプツィヒ・ハレ空港に駐機されたまま動けないロシアの巨大貨物機An-124は、ロシアのウクライナ侵攻とそれに対する国際社会、特にEUによる強力な経済制裁の目に見える物理的な影響の一つです。これらの機体が整備のために滞在していたタイミングで空域が封鎖されたことは、戦争と制裁が非常に突然かつ予測困難な形で始まったことを物語っています。この具体例は、国際的な政治情勢の急変が経済や企業の活動に予期せぬ、そして長期にわたる影響を及ぼす現実を示しており、一般市民にとっても影響は大きいことを示唆しています。
参考文献
- Yahoo!ニュース / PRESIDENT Online (元の情報源)
- ドイツ語版 Wikipedia (An-124に関する歴史的背景など)
