兵庫県知事の斎藤元彦氏(47)を巡っては、数々の問題が指摘され、その資質が問われています。定例会見での応答や、過去の評判との変化について、元・神戸新聞記者でノンフィクションライターの松本創氏が分析しています。会見室の異様な雰囲気、職員の表情から、現在の状況がうかがえます。
過去の評価と現在の問題点
松本氏によれば、知事就任前の斎藤氏は異なる印象だったといいます。大阪府の財務部財政課長時代に面識を得た際、彼はコミュニケーション能力が高く、質問に的確に答え、バランス感覚のある有能な若手官僚に見えたそうです。多くの知人も同様の印象を抱いていました。
しかし、知事就任後まもなく、「すぐにキレる」といった悪評を聞くようになったと松本氏は語ります。斎藤知事はこれまで、公益通報者潰し問題、告発者である元県民局長の情報漏洩疑惑、自身の選挙違反疑惑など、複数の問題を抱えています。これらの問題に関する定例会見では、「真摯に受け止める」「適切だった」といった言葉を繰り返すだけで、記者からの質問に具体的に答えないのが常態化しています。会見に同席する職員たちも、あきらめたような表情を見せていると松本氏は指摘します。
政策への偏り?象徴的な「震災犠牲者数」の誤り
それほど反感を買ってでも進めたい施策があるのか。松本氏は、知事自身が語るように、若者・Z世代支援や万博のような地域振興など、特定の政策に力を入れたいのだろうと推測します。しかし、知事という立場は、多様な意見を聞き、幅広い県民のための施策を進める必要があるにも関わらず、斎藤知事は自身の興味があることしか見ないようにすら見えるといいます。
その象徴的な出来事が、阪神・淡路大震災の犠牲者数を間違えたことです。震災30年を迎えた今年1月、犠牲者数を「4,600人」と誤って発言し、後日謝罪しました。これは、兵庫県知事として、また震災から30年という重要な年にあってはならない間違いであり、震災に関心があれば間違えるはずがないと松本氏は語気を強めます。
兵庫県知事・斎藤元彦氏。かつて「好青年」と呼ばれた彼に今何が問われているのか
世論調査と「反マスコミ感情」の影響
こうした数々の失態が影響したのか、今年4月に神戸新聞とJX通信が実施した県内有権者調査では、斎藤知事を「支持しない(55.9%)」が「支持する(34.5%)」を上回る結果となりました。しかし松本氏は、いち県民として、それでも「斎藤知事の人気は根強い」と感じているといいます。その一因として、昨年知事を再選に導いた要因の一つである「反マスコミ感情」の高まりを挙げています。パワハラやおねだりなど、報道が過熱し「斎藤さんはいじめられている」という感情を一部でかき立てた側面がある一方で、松本氏は、知事がまともに答えないから記者が同じ質問を繰り返さざるを得ない状況も存在すると説明します。
問われる知事としての資質
そもそも、質問にまともに答えない斎藤知事に、行政の長としての資質はあるのか。松本氏は「行政の長が法律を守れない時点で、資質はないと言わざるを得ません」と断言します。政治家、とりわけ首長は、自分と意見が異なっても対話を通じて合意形成を図る役割を担います。しかし、斎藤知事は何も説明せず、職員とも議会とも信頼関係を築けていない状況であり、知事にふさわしいとは思えない、と厳しい見方を示します。一方で、すべての県民が毎週記者会見を見るわけではなく、知事が丁寧に頭を下げている場面だけを目にする層にとっては、「いい人」に見えてしまう可能性も指摘しています。
SNS時代の情報信頼性への警鐘
昨年の知事選以降、SNSやYouTubeなどで真偽不明の情報が拡散し、痛ましいことに一人の県議会議員が自死するという出来事も発生しました。松本氏は、こうした情報環境にも危機感を持っています。「オールドメディア」と呼ばれる媒体には、記者、デスク、校閲など複数のチェック体制があり、取材に基づいています。これに対し、取材をせずに自説や持論を発信するユーチューバーなどとは信頼性が異なります。どちらの情報が信頼できるか、考えるまでもないと結びました。兵庫県を巡る混乱は、いまだ収束の見通しが立っていません。
松本創氏の分析からは、兵庫県知事・斎藤元彦氏が直面する問題の根深さ、そして知事としての資質への疑問が浮き彫りになります。また、情報が氾濫する現代社会において、何が信頼できる情報なのかを見極めることの重要性も示唆されています。兵庫県の政治状況は複雑な局面を迎えており、今後の展開が注視されます。