ロンドン(CNN) 英ロンドン東部、イースト・エンドの一角に位置するホワイトチャペル地区。19世紀末に同地区周辺で起きた猟奇的な連続殺人は「切り裂きジャック」事件と呼ばれ、今も未解決のままだ。この事件をテーマにした街歩きツアーが旅行者の人気を呼ぶ一方で、地元住民は反感を募らせている。
ある日の夜8時。同地区のマイター広場では、3組のツアー団体が場所取り争いを繰り広げていた。被害者の一人、キャサリン・エドウズさんの遺体が見つかった現場だ。遺体は顔面を切り裂かれ、腎臓を取り出されていた。
ロンドン旅行の見どころとして、バッキンガム宮殿、タワーブリッジやアフタヌーンティーとともに挙がるのが、「切り裂きジャック・ツアー」だ。しかし一部の住民は、商売が行き過ぎだと感じている。
殺人事件をテーマとするツアーは、これまでも世界各地で催されてきた。悲劇の現場を訪れる「ダークツーリズム」の研究者、英セントラル・ランカシャー大学のフィリップ・ストーン博士はCNNとのインタビューで、殺人犯の切り裂きジャックは年月の経過とともに「ある意味、架空の人物へと変貌(へんぼう)を遂げた」と指摘した。
境界があいまいに
同博士によれば「犯人が美化され、社会全体の文化に組み込まれることで、現実と非現実の境界が広がり、あいまいになっている」という。
ロンドンに拠点を置く旅行社「レベル・ツアーズ」のガイド、シャーロット・エバリットさんは「事件について語ること自体ではなく、どんな語り方をするかが問題だ」と話す。同社は2022年、従来のツアーに代わる案として、「切り裂きジャック・女性たちに何が起きたのか」と題する街歩きツアーを打ち出した。当初はツアー名から切り裂きジャックという言葉を完全に削ることも考えたが、それでは旅行者の関心を引けないことが分かった。
エバリットさんにとって特に気がかりなのは、ツアーで生々しい事件の画像が使われたり、証拠の裏付けに反して「被害者は全員、性労働者だった」と語られたりする点だ。
殺害された女性の遺体の写真を見せるガイドもいるという。エバリットさんは「現代の事件では被害者の遺体を公開しないのに、この女性の遺体はなぜ見せていいのか。彼女だって同じように実在していたのに」と訴えた。