米中央情報局(CIA)のジョン・ラトクリフ長官は25日、米軍によるイランの核施設への空爆について、「深刻な損傷」を与え、復旧には数年を要するとの見方を示しました。この見解は、空爆の影響は限定的だったとする米当局の初期評価が流出したのと対照的です。この状況は、米国の情報機関内での評価の相違を示唆しており、イランの核開発計画の現状に関する不確実性を高めています。
米当局の評価の対立
米軍は現地時間22日未明、イランの主要核施設3カ所を空爆しました。国防総省の主要情報機関である国防情報局(DIA)は初期評価で、空爆後もイランの核開発計画の中核部分は無傷のままだとしていました。このDIAの評価内容が24日に流出し、トランプ大統領の反発を招きました。
トランプ大統領は、空爆によってイランの核施設を「抹消した」と強く主張しています。大統領は25日、自身のソーシャルメディアで、流出した評価を「フェイクニュース」とし、「うそをつき、事実を完全にゆがめている」と非難しました。さらに、ピート・ヘグセス国防長官らが26日に国防総省で記者会見を開き、空爆の成果について説明する意向を示しました。
攻撃の背景と影響
今回の空爆は、イスラエル軍が13日にイランの核施設などを標的に奇襲攻撃を開始し、これに対しイランが応戦したことで始まった12日間の戦闘が、24日に停止した後のことです。イスラエルとイランは、トランプ大統領が仲介した不安定な停戦合意を尊重している模様です。
オランダ・ハーグでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したトランプ大統領は25日、空爆は「非常に激しいもので、(核施設を)抹消した」と重ねて述べました。また、来週予定されている協議で、イランに核開発計画の放棄を求める考えを示しましたが、イラン側はこのような交渉について認めていません。一方、アメリカのスティーヴ・ウィトコフ中東担当特使は米NBCに対し、アメリカとイランが直接的および間接的なやり取りを行っていることを明らかにしました。
CIA・DNIの見解と衛星画像
ラトクリフCIA長官は声明で、CIAの情報は「歴史的に信頼性の高い情報源・手法から得た新たな情報」に基づいていると説明しました。この情報が、「イランの主要核施設の一部は破壊され、再建には数年を要する」ことを示唆していると述べています。
タルシ・ギャバード米国家情報長官(DNI)も、イラン核施設の被害についてトランプ大統領の見解を支持しました。ソーシャルメディアへの投稿で、「イランが再建を選ぶなら、(ナタンズ、フォルド、イスファハンの)3施設すべてを一から建て直す必要があり、それには数年かかるだろう」と述べています。米軍の作戦には、125機の軍用機が投入されたと報じられています。
米軍の空爆後に撮影されたとみられるイランのフォルド核施設周辺の衛星画像
イラン、フォルド核施設の地下施設入口付近を示す衛星画像
新たな衛星画像では、フォルドの施設の二つの出入口付近に六つのクレーターが確認できるほか、イスファハンでも同様のクレーターが見つかっています。しかし、地下深くにある核施設そのものが完全に破壊されたかどうかは不明な点も残ります。24日に米メディアが報じた流出DIA評価は、今回の空爆によるイラン核開発計画の遅れは「数カ月後退しただけ」としていました。ヘグセス国防長官は、この評価は「信頼度が低い」と主張しています。この評価に詳しい関係者は、これはあくまで初期段階のものであり、追加の情報によって内容が変わる可能性があると指摘しています。アメリカには18の情報機関があり、それぞれの任務や専門分野の違いにより見解が異なることは珍しくありません。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は25日、アメリカの攻撃を受ける前に、イランが高濃縮ウランの大半を別の場所へ移動させた可能性に言及しました。
イランとイスラエルの主張
こうした状況下で、イラン外務省のエスマイル・バガエイ報道官は25日、衛星テレビ局アルジャジーラに対し、「我々の原子力施設は深刻な損傷を受けた。それは確かだ」と語りましたが、具体的な詳細は明らかにしませんでした。
一方、イスラエルの原子力委員会の報告書は、フォルドへの攻撃で「同施設の重要インフラが破壊された」としています。この報告書は、核施設が受けた損傷により、イランが核兵器を保有するまでの時間は「数年単位で後退した」と結論付けています。しかし、イラン議会議長の顧問を務めるメフディ・モハンマディ氏は、フォルドは米軍の空爆で「回復不可能な損傷は受けなかった」と述べており、イラン国内でも見解が分かれているようです。
イランは、自国の原子力開発計画は平和目的だと一貫して主張しています。米情報機関は以前、イラン政府は積極的に核兵器の開発は行っていないとの評価を示していました。
結論
イランの核施設への米軍空爆後、米CIA長官が「深刻な損傷」と主張する一方で、国防情報局の初期評価が「限定的」とする見解が流出するなど、米国当局内で評価が大きく分かれています。トランプ大統領は核施設が「抹消された」と強調し、DIA評価を否定していますが、衛星画像は外部の損傷を示唆するものの、地下施設への正確な被害状況は不透明です。イラン側も被害を認める声がある一方、回復不可能ではないとの主張も出ており、イスラエルは核兵器保有のタイムラインが数年後退したと評価しています。これらの相反する情報から、イランの核開発計画が今回の空爆によって実際にどの程度影響を受けたのか、その全容は依然として不確実性の高い状況にあると言えます。
BBC Newsによる