2024年6月、中東ではイスラエルとイランの間で緊迫した事態が発生しました。イスラエルがイランの核施設への武力行使に踏み切り、これに対しイランも報復措置を取り、両国間でミサイル応酬が繰り広げられました。さらに、アメリカ軍が「ミッドナイト・ハンマー作戦」を実行し、イランの核燃料施設を爆撃するなど、地域の緊張は一気に高まりました。米軍の介入後、懸念されたホルムズ海峡の封鎖といった最悪の事態は回避され、両国は停戦に合意しましたが、小規模な衝突は続いています。このような情勢の中、在日イスラエル大使のギラッド・コーヘン氏にインタビューする機会を得ました。本記事では、イスラエルがイラン攻撃に至った経緯やその正当性、そして現在も多くの犠牲者が出ているパレスチナ自治区ガザでの軍事作戦の今後について、大使の考えを詳報します。
日本での安全確保と抗議活動について
インタビューではまず、日本における安全確保と、イスラエルに対するデモ活動について大使に尋ねました。コーヘン大使は、日本は民主主義国であり表現の自由を尊重していると前置きしつつも、「非常に快適で、非常に安全だと感じています。日本政府と日本の警察に感謝したい」と述べ、日本での生活に不安はないことを強調しました。日本には反ユダヤ主義や真の憎悪は存在しないと感じており、もし小さな問題が発生したとしても、日本政府と全面的に協力して対処する姿勢を示しました。
大使館前で行われる抗議デモのメッセージについても質問しました。大使は、「パレスチナを解放せよ」という表現、特に「川から海までパレスチナは自由であるべきだ」というスローガンは、「憎悪の表現であり、暴力につながる表現だ」と強く非難しました。この表現がワシントンD.C.でイスラエル大使館職員2名の殺害につながった事例に言及し、それがテロと反ユダヤ主義を扇動するものだと指摘しました。その理由として、ヨルダン川から地中海までの地域にアラブ・パレスチナ国家だけが存在することになれば、ユダヤ人はそこに住めなくなるため、「ユダヤ人にはそこに住む権利がないと言っているに等しい」と説明しました。大使は、デモ参加者たちは自分たちが何を言っているのか理解していないと述べ、彼らの発言は「純粋な扇動であり、その結果はテロであり、世界中の外交官への銃撃だ」と断じました。大使はデモ参加者らとは関わらず、彼らの言動を気にしていないとも語りました。
在日イスラエル大使が言及した抗議活動に関連する、ホワイトハウス前のデモ参加者
反ユダヤ主義とは何か:歴史と現代
次に、反ユダヤ主義とは具体的に何なのかについて質問しました。コーヘン大使は、反ユダヤ主義は「世界で最も古い現象の一つ」であると述べました。世界で問題が発生するたびに、誰かを非難する傾向があり、その際に標的とされるのがユダヤ人であることが多いと指摘しました。例えば、第一次世界大戦後のドイツで経済が停滞し失業が増えた際、ヒトラーとナチス指導者たちがユダヤ人を問題の原因だと非難した歴史に触れました。
大使は、ユダヤ人は2000年前に故郷から追放され世界中に散らばりながらも、移住先の社会で科学、文化、医学などに貢献してきた善良な市民であるにもかかわらず、ナチスによって600万人ものユダヤ人が絶滅させられたホロコーストの悲劇を繰り返してはならないと強調しました。
反ユダヤ主義は根深い問題であり、アラブ諸国だけでなく、アメリカやヨーロッパなど世界中に存在すると述べました。その背景には、ユダヤ人が成功し、多くの貢献をしていることへの嫉妬や憎悪があるのかもしれないとの見方を示しました。イスラエルの高い一人当たりGDPや、科学、技術、教育への投資が「スタートアップ国家」を築いた例を挙げ、人々が嫉妬心から「ユダヤ人は悪い」「ユダヤ人は経済で世界を支配している」といった間違った認識を持つことに繋がると説明しました。これは事実とは異なると明確に否定しました。
参考文献