障害年金「不支給」急増の背景に迫る 日本年金機構の内部証言と資料が示す実態

「明らかにおかしいです」。知り合いの社会保険労務士から記者にメールが届いたのは昨年夏のことだった。障害のある人に支給される「障害年金」の申請代行を専門に扱う真面目な社労士だ。聞けば、申請が認められないケースが最近増えているのだという。「以前なら支給されていたであろう人が不支給と判定される」。そう訴えた。

障害年金「不支給」急増の背景に迫る 日本年金機構の内部証言と資料が示す実態東京都新宿区にある日本年金機構 障害年金センターの外観

何が起きているのか。取材を進めると、支給実務を担う日本年金機構の内部から驚くような証言が出てきた。それを踏まえ、4月に「障害年金の不支給が急増している」と報じたところ、厚生労働省は年金機構に対し調査を開始。6月に調査報告書が発表されたのだが…。

不支給急増の背景にある「厳格化」方針

東京・新宿。飲食店が立ち並び、人通りが激しい道を進んでいくと、その建物が見えてきた。日本年金機構の「障害年金センター」だ。このセンターに勤める職員の1人、町田伊織さん(仮名)は、センターとは別の場所で取材に応じてくれた。町田さんは口を開くと、驚くべき話を始めた。

「2023年10月に異動で就任したセンター長が『厳しく審査するように』という方針なんです。それが、不支給が増えた大きな要因になっています」

町田さんは3枚の紙を見せてくれた。小さな数字がびっしりと並んでいる。2024年度の障害年金の不支給件数を週ごとに集計した非公表の資料だ。年間の合計は約2万9千件に上るという。

障害年金「不支給」急増の背景に迫る 日本年金機構の内部証言と資料が示す実態障害年金 不支給急増の背景を証言する日本年金機構の職員(仮名)

この数字は驚きだった。なぜなら、年金機構が公表している統計では、前年度の不支給件数は約1万3千件。わずか1年で2倍以上に増えているのだ。これは、センター長交代による審査方針の変更が、障害年金の決定にどれほど大きな影響を与えているかを示唆している。

判定医の判断を左右? 内部文書が示す実態

町田さんはさらに衝撃的な資料も見せてくれた。これは、障害年金の支給の可否や等級を判定する、年金機構の委託を受けた医師(判定医)に関する内部文書だ。判定医は今年1月現在、約140人いる。

障害年金「不支給」急増の背景に迫る 日本年金機構の内部証言と資料が示す実態日本年金機構 障害年金センターが判定医向けに作成したとされる内部文書

文書は、全員ではないが、特定の判定医について障害年金センターの職員が記した、いわば「傾向と対策」のような内容だった。ある精神科医については、こう書かれている。

「基本的にこちらの意向に沿って柔軟に認定(判定)していただけますので、方向性や(障害の)程度、不支給理由に関してもこちらであらかじめ決めておくのが望ましい」

これは、本来、専門家である判定医が医学的見地から行うべき判断を、事務方の職員が実質的にコントロールしている可能性を示唆する内容だ。別の精神科医に関する記述では、申請者の症状や生活状況など具体的な想定を複数挙げ、それぞれについて判定の傾向を説明。「事務方の意向通りにならないことはそれなりにあります」とも記されており、職員の意図が判定に影響を与えようとしている様子がうかがえる。

こうした内部証言と資料は、障害年金という障害のある方々の生活を支える重要な制度の運用において、公平性や透明性が損なわれているのではないかという深刻な疑念を抱かせるものだ。厚生労働省は報道を受け、年金機構への調査を行ったが、この実態がどこまで解明され、改善につながるのか、今後の動向が注視される。

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