太平洋上空で日本の哨戒機に中国の戦闘機が異常接近し、南西諸島周辺では中国製ドローンの飛来が頻繁に報告されるなど、日本近海における中国軍の活動が活発化している。特に今月初めに発生した中国軍戦闘機による自衛隊機への危険な急接近は、あわや大惨事になりかねない緊迫した状況を生み出した。日本の「空飛ぶパトカー」とも例えられる海上自衛隊の哨戒機P-3C(全長約35メートル、最大時速約730キロ)が遭遇した“あおり運転”の詳細と、その背景にある中国海軍の戦略を探る。
自衛隊機への危険な異常接近
今回の危機一髪の出来事は、今月7日に宮古島の南東約550キロの海域で発生した。東進していた中国海軍の空母「山東」をP-3Cが監視していた際、山東から発進したJ-15戦闘機がP-3Cにおよそ40分間にわたりつきまとい、一時約45メートルという極めて危険な距離にまで接近した。翌日にも同様の追従があり、約80分間にわたりP-3Cの前方約900メートルを横切る飛行を行ったという(防衛省担当記者)。
音速に達する速度を持ち、ミサイルなどを搭載している可能性もあるJ-15戦闘機のこのような飛行は、衝突や後方に発生する強力なジェット噴流にP-3Cが巻き込まれる危険性を伴う極めて問題のある行為である。元空将で麗澤大学特別教授の織田邦男氏は、この急接近について解説する。偵察や監視に来た他国の航空機をけん制する行為自体は珍しくないが、今回注目すべきはP-3Cと同高度で接近してきた点だという。これは恐らく、自衛隊側に自分たちの姿を写真撮影させることを意識して飛んでいたためだろうと指摘する。
日本の自衛隊機(P-3C)に危険な距離まで急接近する中国軍の戦闘機(J-15)
空母2隻同時展開に見る中国海軍の戦略
普段は厳格に情報を統制している中国軍が、なぜ今回に限って撮影されることを意識した行動をとったのか。その理由は、中国軍が保有するもう一隻の空母「遼寧」の動きと深く関連している。遼寧は5月末に宮古島の東を通過して太平洋に進出し、そこでヘリコプターや戦闘機を約140回も発着艦させる大規模な訓練を実施した。さらに東進を続け、今月7日には日本の南鳥島近海にまで到達した。そして、山東も9日には日本の沖ノ鳥島の北側に達し、戦闘機の発着艦訓練を行った。中国海軍の空母2隻が同時に太平洋で活動したのは、これが初めてのことである。
太平洋で活動する中国海軍の空母「遼寧」
山東と遼寧はともに全長300メートル超という巨大空母であり、海上自衛隊最大の護衛艦「いずも」を凌駕するサイズを持つ。それぞれがミサイル駆逐艦や支援艦などを複数引き連れ、本格的な艦隊として太平洋への進出を果たした。織田氏は、J-15の急接近よりも、この空母2隻の同時展開こそが衝撃的だと述べる。かつて沿岸での活動しかできないことを揶揄され「ブラウンウォーター・ネイビー(沿岸海軍)」と呼ばれた中国海軍が、今回遼寧はかなり遠洋で活動し、山東は自衛隊のP-3Cに対する迎撃態勢まで構築している。沿岸と異なり緊急着陸ができない洋上での作戦遂行には、空母への確実な着陸技術などパイロットの高い練度が必要となる。これは、中国海軍が遠方まで展開可能な「ブルーウォーター・ネイビー(遠洋海軍)」へと進化したことを内外に示す、デモンストレーション的な活動であると分析している。
これらの出来事は、中国海軍が沿岸防衛から脱却し、太平洋でのプレゼンスを高め、より遠方での作戦遂行能力を向上させている現状を示唆している。自衛隊機への異常接近は、この強力な海軍力の発展と連携した、一種の示威行動であった可能性が高い。