生活保護費減額は違法、最高裁が初判断 – 受給者への影響と今後の焦点

生活保護費の減額が「違法」か「適法」かが問われた裁判で、最高裁判所は27日、減額を違法とする初の統一的な判断を示しました。この判決は、全国の生活保護受給者約200万人の生活に影響を与えうるものであり、今後の「補償」や制度のあり方が焦点となります。社会部記者が、最高裁の判断の背景と今後の展望について解説します。

最高裁が「違法」判断を下すまで

今回の裁判で争点となったのは、国が2013年から3年間にかけて実施した生活保護基準の見直しです。これは、デフレによる物価の下落を踏まえるとして行われ、生活扶助基準額が最大10%引き下げられました。生活保護費は、厚生労働大臣が定める基準に基づき算定され、国が4分の3、地方自治体が4分の1を負担しています。この基準引き下げに対し、受給者らが「生存権を侵害する」として全国で提訴しました。

全国31件、約1000人の原告が起こした裁判では、これまでの高等裁判所の判断が分かれていました。12件の高裁判決のうち、減額を「違法」としたものが7件、「違法ではない」としたものが5件と、司法の判断が揺れていました。このような状況の中、最高裁が上告審として審理を進め、今回、減額は判断の過程に誤りがあったとして「違法」とする初めての統一判断を示したのです。

原告の訴えと生活への影響

今回の裁判の原告の一人である愛知県刈谷市の千代盛学さん(71)は、糖尿病の影響で視力を失い、生活保護を受けながら一人暮らしを続けています。国の減額によって、千代盛さんの受給額は月に約2650円減少しました。

生活保護費減額違法訴訟で最高裁の勝訴判決を受け涙する原告の男性生活保護費減額違法訴訟で最高裁の勝訴判決を受け涙する原告の男性

千代盛さんは、減額されたことで、それまで1日2食だった食事を1食に減らさざるを得なくなったといいます。「衣類なんか10年くらい買っていません」と語り、部屋にエアコンがあっても「電気をくうから」とコンセントを抜いているなど、切り詰めた生活の実情を訴えてきました。千代盛さんは判決後、涙ながらに「応援、補助してくれた人、弁護士の先生にはもう足を向けては絶対寝ないと誓っております。ありがとうございました」と述べ、国に対しては「親身に我々の生活を見てもらいたい」と訴えました。原告弁護団の小久保哲郎弁護士は、今回の判決について「デフレ調整が違法である。物価を直接考慮したこと自体が違法である」と解説しました。

今後の焦点と「補償」の可能性

最高裁が生活保護費の減額を違法と判断したことで、今後、国や自治体は対応を迫られることになります。特に焦点となるのが、これまで減額された分の生活保護費を受給者に対してどのように扱うか、つまり「補償」の可能性です。

現行制度上、過去の過払い金の返還を求めるケースはあるものの、今回のように違法とされた減額分をさかのぼって支払う、いわゆる「補償」については、具体的な法的な規定がありません。そのため、国がどのような形で、どの範囲まで対応するのかが大きな課題となります。また、今回の判決は2013年からの引き下げに関するものですが、今後の生活保護基準の見直しにも影響を与える可能性があります。受給者の生活実態をより適切に反映し、生存権を保障するための基準のあり方について、改めて議論が進むことが予想されます。

今回の最高裁判決は、生活保護制度の根幹に関わる重要な判断であり、今後の日本の社会保障のあり方に一石を投じるものと言えます。


参考資料:

  • Yahoo!ニュース (テレビ朝日系(ANN)) 2024年6月27日掲載記事