2024年6月、鹿児島市内の賃貸マンションで、管理人がマスターキーを悪用し入居者宅に侵入、女性用の下着を物色するという信じがたい事件が発生した。被害を受けた女性は警察の助言で転居を余儀なくされたが、マンション管理会社からは謝罪も補償もなく、約100世帯の他の入居者には事件について一切知らされなかったという。この事件は、賃貸物件における居住者のプライバシーと安全が、管理体制の盲点により容易に脅かされ得る現実を浮き彫りにしている。
管理人の衝撃的な供述と事件の経緯
マンションの全室を開錠できるマスターキーを常に携帯していた管理人は、好意を抱いていた女性が不在の間を狙い、その部屋に侵入した。押し入れを開け、複数の女性用下着を物色したとされる。逮捕後の鹿児島県警の取り調べに対し、管理人は「普段見られない奥さんの下着を見てとてもうれしい気持ちに」「奥さんが履いていたということを想像しながら興奮した」と供述したという。事件後、管理人は依願退職し、2024年8月には住居侵入の罪で懲役1年、執行猶予3年の判決を受けた。
マンションの管理人が持ち歩いていたマスターキー。写真下の「2015 New Master」と記載された鍵を使って被害者の部屋に侵入した(被害者に開示された事件記録より。鍵の形状を伏せるために一部でモザイク加工をしています)
管理会社の「何もわからない」という姿勢と対応の欠如
事件発生後、被害女性はマンションを管理する不動産会社(本社:宮崎県小林市)に対し、説明と謝罪を求めた。しかし、同社は事件について「何もわからない」と主張し、女性への謝罪や補償を一切行わなかった。女性の知人が他の入居者への事件報告の責任について問い詰めた際も、会社の幹部は管理人の個人情報保護を理由に報告を拒否したという。この管理会社の姿勢は、居住者の安全よりも自己都合を優先していると批判されても仕方がないだろう。
マンションの部屋で現場検証をする鹿児島県警の捜査員。扉が開いている押入れの中で女性の下着が物色された(2024年6月1日、被害者撮影)
複数部屋での撮影疑惑と報じられない現実
管理会社から突き放された被害女性は、「また同じような事件が起きるかもしれない」と強い危機感を抱いている。警察の参考人聴取では、管理人のスマートフォンに多数の下着写真が保存されており、その位置情報から同じマンションの複数部屋で撮影された可能性があることが知らされたという。しかし、警察と検察はこれらの写真に関する立件を見送っている。
警察の実況見分で使われた被害者宅の間取り図(被害者に開示された事件記録より。一部でモザイク加工をしています)
さらに女性は、これほど重大な事件がほとんど報道されない現状にも疑問を感じていた。鹿児島県警は記者クラブで事件を発表したが、発表文には容疑者がマンション管理人であることや、マスターキー悪用という犯行手口が明記されていなかったため、各社は「軽微な事件」と判断し報道を見送った可能性がある。女性が地元テレビ局の関係者に取材を依頼しても反応はなく、「完全に無視された」と落胆したという。
「住居侵入及び窃盗未遂事件」として発表した鹿児島県警のウェブサイト(2024年6月2日、被害者撮影)
事件が提起する問題点
この鹿児島で発生したマンション管理人による住居侵入事件は、単なる一犯罪として片付けられない、賃貸物件の管理体制における構造的な問題点を浮き彫りにしている。マスターキーという全能の鍵を扱う管理人の倫理観の重要性、そして事件発生時における管理会社の居住者に対する説明責任と再発防止策の必要性だ。さらに、警察やメディアが事件の重大性(特に犯行手口)をどのように判断し、情報公開や報道を行うべきかという点も問われている。居住者が安心して生活できる環境を確保するためには、管理会社、警察、メディア、そして居住者自身の意識向上が不可欠である。
出典:屋久島ポスト(弁護士ドットコムニュース経由)