市川沙央さん芥川賞受賞:初の重度障害作家が描く社会の壁と人間性

2023年、第169回芥川賞は、重度の障害を持つ作家、市川沙央氏に授与されました。受賞作『ハンチバック』は、作者自身と同じ病を抱える主人公を通して、障害のある人々の人間性や、彼らを取り巻く日本社会の現状を鋭く描写し、大きな反響を呼びました。2025年3月には英訳版も刊行され、国際的な注目も集めています。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が、旺盛な創作意欲を持つ市川氏にインタビューしました。

2023年、歴史的快挙の意義

2023年7月、日本の文学界で最も権威ある賞の一つである芥川賞の受賞者として市川沙央氏の名前が読み上げられた時、彼女は両親と編集者に向けて静かに親指を立てました。45歳(当時)の市川氏は、181人目の芥川賞受賞者であると同時に、授賞式で登壇するためにスロープを必要とした初めての受賞者でもありました。彼女は先天性ミオパチーという筋組織の疾患を抱え、移動には車椅子、呼吸には人工呼吸器を必要としています。重度身体障害を持つ作家として初の受賞という、歴史的な快挙を成し遂げました。

日本中の注目が集まるこの機会を捉え、市川氏は受賞作『ハンチバック』の根幹にあるテーマ、すなわち障害者がいかに社会から孤立し、見過ごされがちな存在となっているかについて、人々の意識を喚起しました。彼女は、発話のために喉元のボタンを押しながら、記者団に対してこう語りました。「私はこれまであまり(障害)当事者の作家がいなかったこと、それを問題視してこの小説を書いた」「どうしてそれが2023年にもなって初めてなのか。それをみんなに考えてもらいたいと思っています」。この言葉は、長年文学界や社会における障害者表象の遅れに対する率直な問いかけでした。

重度障害者として初めて芥川賞を受賞し壇上で表彰される市川沙央さん重度障害者として初めて芥川賞を受賞し壇上で表彰される市川沙央さん

当事者の視点が壊すステレオタイプ

14歳で人工呼吸器を使用するようになり、学校に通えなくなった市川氏にとって、作家に至るまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。しかし、彼女は社会の中で自身の声を取り戻すことを諦めず、20代で小説を書き始めます。その後20年以上にわたり、若い読者向けの恋愛小説やファンタジーなど、30作品以上を執筆しましたが、それらが公に出版されることはありませんでした。

2019年に早稲田大学の通信教育課程に入学した頃から、彼女は文学作品における障害者の登場機会が極めて少ない現状について深く考えるようになります。そして、この状況を変えるため、自分自身のような重い障害により車椅子と人工呼吸器に依存する主人公の物語を書こうと決意しました。

市川氏によれば、『ハンチバック』は、自身が抱えるシリアスなテーマを取り上げ、自身の経験の一部を読者の前にさらけ出した初めての作品です。彼女は、両親と共に暮らす自宅でのインタビューでこう語りました。「障害者表象には非常にステレオタイプなものしかなかったので、それを崩したかったのです」「私たちだって人間だし、性格も欲望もさまざまなんだと示したいと思いました」。

重度障害者として執筆活動を行う市川沙央さん、iPad miniを使用重度障害者として執筆活動を行う市川沙央さん、iPad miniを使用

性的欲望もまた、ステレオタイプ打破の重要な要素です。作者と同じような筋組織の障害を持つ女性主人公、釈華(しゃか)は、自身の人生の主導権を握り、自らの人間性を否定しようとする社会へのある種の「復讐」として性欲を利用します。市川氏は、日本の歴史において、障害や病気が隠すべき恥ずかしいものと見なされてきた背景に触れ、「妊婦が重度障害者のそばを通り過ぎる際、悪い霊を払うために鏡をかざすよう言われた時代もあった」と述べています。彼女の作品は、このような歴史や固定観念に一石を投じ、障害のある人々の多様な現実と内面を鮮やかに描き出しています。

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