トカラ列島地震頻発「トカラの法則」は俗説 専門家が否定:科学的根拠なし

鹿児島県のトカラ列島近海で地震が相次いでおり、その活動が活発化してから28日で1週間が経過しました。福岡管区気象台によると、この期間中に震度1以上の揺れを観測した地震は、28日午前11時までに累計で515回に達しています。こうした頻発する地震活動に関連して、X(旧ツイッター)などの交流サイト(SNS)上では、「トカラの法則」と呼ばれる俗説が再び話題となっています。

この「トカラの法則」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。それは、トカラ列島近海で地震活動が活発になると、その後、国内の離れた場所で大規模な地震が発生するというものです。過去の大きな地震との時期的な一致が指摘され、まことしやかに語られることがありますが、この俗説について、専門家は明確に「科学的な根拠がない」と否定しています。

「トカラの法則」:俗説の拡散と変遷

「トカラの法則」と呼ばれる俗説は、SNSを中心に広まりました。X上では2016年頃から関連の投稿が見られるようになっており、この年はトカラ列島近海で複数の月にわたり地震が頻発しました。当初の投稿では、「トカラ近海で地震が頻繁に起きると桜島が噴火する」といった内容だったものが、年月を経るにつれて「トカラ近海で地震が相次いだ後には、他の地域で大地震が起きる」という現在の形に変化したようです。実際に、2016年の熊本地震が発生する直前の4月1日から8日にかけて、トカラ列島近海では9回の地震が観測されています。また、2024年元日に発生した能登半島地震の前にも、約2カ月間で46回の地震がトカラ列島近海で観測されたことが、俗説の根拠として語られることがあります。しかし、これらの時期的な一致は、科学的に地震の発生を予測できるような関連性を示すものではありません。

専門家による「トカラの法則」の否定

福岡管区気象台の地震火山課にて、トカラ列島地震の観測状況について説明する担当者福岡管区気象台の地震火山課にて、トカラ列島地震の観測状況について説明する担当者

「トカラの法則」について、専門家は科学的な根拠が存在しないと断言しています。熊本大学の横瀬久芳准教授(海洋火山学)は、この俗説に対し、「科学的な根拠がない」と強く否定する見解を示しています。特定の地域での地震活動が、遠く離れた地域での大地震に直接的に結びつくというメカニズムは、現在の地震学では確認されていません。地震の発生はプレート運動や活断層の活動など、それぞれの場所の地下構造や応力状態に大きく依存するため、トカラ列島の活動が他の広範囲な地域の大地震を誘発する科学的な根拠はないと考えられています。

トカラ列島近海で地震が多い地質学的要因

では、なぜトカラ列島近海では地震が頻繁に観測されるのでしょうか。横瀬准教授は、その理由をこの地域の特殊な地質学的構造に求めています。トカラ列島周辺の海底では、陸側のプレートの下に海側のフィリピン海プレートが沈み込んでいます。このフィリピン海プレートには大規模な隆起部分が存在し、この隆起が陸側のプレートに衝突する際に、陸側プレートの内部が破壊され、地震が発生しやすい状態になっていると分析されています。こうしたプレートの沈み込みと海底地形の特徴が、トカラ列島近海が他の地域に比べて日常的に地震が多い「地震の巣」のような場所である要因となっているのです。

今回の地震活動に関する専門家の見解

今回のトカラ列島近海での地震活動について、横瀬准教授は、発生している地震はすべて小規模なものであると指摘しています。そして、「この程度の地震が、国内の離れた場所で巨大地震を誘発することは考えにくい」と述べています。つまり、現在の地震活動は、トカラ列島近海で地震が頻発する地質学的背景に基づいたものであり、俗説で語られるような他の地域での大地震に直接的に繋がるものではないとの見方を示しています。冷静な対応が求められます。

悪石島での観測状況と地理的特徴

今回の地震活動で特に揺れが集中しているのは、トカラ列島を構成する12の島の一つである悪石島です。悪石島では今月21日以降、震度4の揺れを6回観測しており、島民は不安を感じながら生活を送っています。悪石島には43世帯89人が暮らしています(情報は取材時点)。トカラ列島は、鹿児島県の屋久島と奄美大島の間に点在する島々からなり、その美しい自然景観で知られる一方、地質学的には複雑で活発な地域に位置しています。

まとめ

トカラ列島近海での地震頻発は、この地域の特殊な地質構造によるものであり、専門家は「トカラの法則」に科学的根拠がないと明言しています。現在の地震活動は小規模であり、他の地域での大地震を誘発する可能性は低いとの見解が示されています。俗説に惑わされることなく、気象台や専門家からの正確な情報に基づいて、冷静に状況を判断することが重要です。


参照元: https://news.yahoo.co.jp/articles/d32ce1378825e47bdb47a0a25ae869d524d31e24 (毎日新聞)