中国の台湾侵攻は現実的か?最大の難関「着上陸作戦」の脆弱性分析

中国共産党にとって、台湾の併合は建国以来の悲願であり、習近平国家主席にとっては指導者としての集大成と位置付けられています。一方で、米国は自国の重要な国益を守るため、台湾防衛への関与を明確にしています。米中が台湾を巡って軍事衝突した場合、その結末はどうなるのでしょうか。特に、中国が台湾を武力で制圧する可能性、そしてその過程で直面する最大の難関について、専門家の分析に基づき検証します。

台湾侵攻作戦の段階と、着上陸の不可欠性

人民解放軍が想定する台湾への武力侵攻作戦は、大きく分けて三つの段階があります。第一段階は、台湾の封鎖に加え、ミサイルや航空機による攻撃(戦略爆撃)です。第二段階は、実際に部隊を島に送り込む着上陸侵攻。そして第三段階は、台湾内部での戦闘です。これらの段階は、一つ前の目標が達成されなければ次へ進めない設計となっており、途中で大規模な遅延や混乱が生じれば、作戦全体が頓挫する構造的な弱点を抱えています。

海岸に着上陸する戦車と兵員輸送車。台湾侵攻作戦における着上陸のイメージ。

もちろん、台湾に対する武力行使として、封鎖やミサイル攻撃のみを行う可能性もゼロではありません。しかし、過去200年間の主権国家間の紛争を振り返ると、封鎖や戦略爆撃だけで相手国を降伏させた事例はほとんど見当たりません。むしろ、こうした攻撃は相手国民の団結を強め、継戦意思を高めてしまう傾向すらあります。例えば、第二次世界大戦中の日本に対する包括的な封鎖は、輸入の97%を遮断し、都市部への大規模空襲が行われても、原子爆弾投下とソ連の参戦までは降伏に至りませんでした。また、近年のウクライナにおけるロシアによる都市部への無差別攻撃を見ても、限定的な萎縮効果しか発揮されていないことがわかります。

このため、中国が武力によって台湾を統一しようとする場合、大規模な着上陸作戦の実施は避けて通れない、不可欠な要素となると考えられています。

「着上陸作戦」が直面する極めて高いハードル

しかし、着上陸作戦は、米軍の統合ドクトリンでも「あらゆる軍事作戦の中で最も困難なものの一つ」と位置付けられているほど、実行する側にとって極めて難易度の高い作戦です。その成功のためには、以下の三つの条件を同時に満たす必要があります。

  1. 航空優勢の確保: 上陸地点周辺の制空権を完全に掌握すること。
  2. 地上戦闘部隊の迅速な集結: 防御側(台湾軍)を圧倒する規模の部隊を迅速に集め、準備を整えること。
  3. 兵站の確立: 集結した部隊を、防御側よりも迅速かつ継続的に上陸地点に送り込むための、強固で途切れない補給・支援体制を構築すること。

人民解放軍は、約17万人の現役兵と160万人以上の予備役を持つ台湾軍に対し、最短でも約159km、最長230kmにも及ぶ台湾海峡を約8時間かけて渡った先に到着し、これらの条件を整えなければなりません。これは極めて厳しい要求と言えるでしょう。

台湾の海岸線がもたらす地理的制約

さらに、着上陸作戦にとって物理的な制約となるのが、台湾の海岸線の地形です。着上陸に適した海岸線は、台湾全土のわずか約10%しかないとされています。

台湾東岸は、切り立った崖が多く、水陸両用部隊にとって大きな障害となります。加えて、波が高く(6mに達することも)、集中豪雨も多い海域を迂回する必要があり、作戦遂行は極めて困難です。

一方、台湾西岸は比較的平坦ですが、泥質の地帯が続き、潮の流れも速い特徴があります。部隊が泥にはまって行動不能になるのを避けるためには、着上陸に適した限られた地点を選ばざるを得ず、そこへたどり着くにはやはり高波の中を進む必要があります。

つまり、中国本土の港湾で、戦車などの地上戦闘部隊や後方支援に必要な機材を、揚陸艦やRO-RO船(車両が自走で乗り降りできる貨物船)といった軍民両用の船舶に積み込み、台湾海峡を横断して台湾沖合に到着した後、部隊や機材をこれらの船から下ろす作業を行う間、さらには着上陸戦闘を開始するのに十分な戦力が一定程度集結するのを待つ間が、侵攻作戦全体において最も脆弱な瞬間となるのです。

侵攻作戦における最も脆弱な瞬間と対抗戦略

まさにこの、部隊や機材の積み下ろしや集結を行っている脆弱な瞬間に、米軍と台湾軍(場合によっては日本の自衛隊も含む)が執拗かつ効果的な攻撃を加えて中国軍に大損害を与えることができれば、その時点で武力による台湾統一の可能性は相当に難しくなると考えられます。

近年、日本、米国、台湾が防衛力の整備において、艦船を遠距離から攻撃できる「長距離対艦攻撃能力」を重視しているのは、このような作戦上の考え方が背景にあるからです。敵の揚陸部隊が最も脆弱な海上で、決定的な打撃を与えることを狙っています。

もちろん、中国側もこのような自らの作戦上の弱点を十分に自覚しており、これに対抗するための手段を整備していると考えられます。今後の米中両軍の動向は、台湾有事の可能性を占う上で引き続き重要な焦点となるでしょう。

参考文献
村野 将 著 『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』 PHP研究所