将棋の藤井聡太棋聖(22)が第96期棋聖戦五番勝負で6連覇を達成した30日、同棋戦に特別協賛するヒューリックの西浦三郎会長がサンケイスポーツの取材に応じ、優勝賞金を従来の4000万円に増額、さらに特別賞1000万円を贈る異例の決定についてその理由を語った。この大幅な賞金増額は、将棋界の未来への危機感と、藤井棋聖というスターの存在が背景にあるという。
賞金増額の背景 – 大谷選手との比較
西浦会長はまず、現代のトップアスリートと比較。米大リーグで活躍する大谷翔平投手(30)が年間100億円規模の収入を得ている現状に触れ、「大谷選手は1年で(収入)100億円。藤井棋聖は8冠を獲っても2億いくかどうか…すごい差がある」と、将棋棋士の収入との間に大きな隔たりがあることを指摘した。
少子化への危機感と将棋界の未来
この差を踏まえ、会長は将棋界の将来に言及。藤井棋聖や大谷選手が子供たちの憧れの存在である一方で、日本の出生率が低下し子供の数が減少している現状に危機感を示した。「子供が減っていく中で、将来どのようにして将棋に興味を持ってもらえるかを考えた」と述べ、賞金増額が、より多くの子供たちが将棋に夢を持つきっかけとなることを期待した。
藤井棋聖の存在と増額のタイミング
今回の増額決定のタイミングについては、「藤井棋聖がスターである今、対応しないと手遅れになる」と判断したことを明らかにした。異次元の強さを発揮した藤井棋聖のさらなる進化と、その圧倒的な人気が将棋界全体の注目度を高める絶好の機会であり、この機を逃さず将来への投資を行う必要があるとの考えを示唆した。藤井棋聖の存在が、未来の将棋界発展に不可欠であるとの認識を示した形だ。
将棋界全体への貢献
ヒューリックは、藤井棋聖への賞金増額だけでなく、将棋界への幅広い支援を行っている。棋士会が行う東日本大震災の支援活動への協力や、女流タイトル戦である「ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦」の優勝賞金を同じく4000万円に増額するなど、社会貢献活動の一環として将棋界全体の発展に寄与している。これは単にトップ棋士を優遇するだけでなく、将棋という文化そのものを支え、広めていこうという同社の強い意志の表れと言える。
会長の対局への熱視線と思考への敬意
この日、対局の初手に立ち会った西浦会長は、その後もモニター越しに熱心に対局を見守った。感想戦で棋聖戦第3局を振り返る藤井棋聖の姿を見ながら、盤上で繰り広げられる深い読み合いや局面での決断力を持つ棋士たちに対して、「ものすごい天才的な勉強をしている」と深い尊敬の念を表した。トップ棋士たちの研鑽と才能が、将棋界のレベル向上に不可欠であると改めて感じた様子だった。
棋聖戦第3局の感想戦を行う藤井聡太棋聖。ヒューリック西浦会長は対局を見て「ものすごい天才的な勉強をしている」とコメントした場面。
藤井聡太棋聖の圧倒的な強さで達成された棋聖戦6連覇は、単なるタイトル防衛にとどまらず、将棋界の未来を左右する大きな動きの契機となった。ヒューリックによる大幅な賞金増額は、スター棋士への評価向上と、少子化が進む中でも将棋に新たな才能を引きつけるための戦略的な一歩であり、将棋界全体の持続的な発展に向けた強い意志を示すものと言える。この決定が、今後どのような影響を将棋界にもたらすか注目される。