世界的に著名な歴史家ニーアル・ファーガソン氏は、今日の国際情勢を「第二冷戦」と捉え、この新たな対立において米国が前回の冷戦よりも苦戦を強いられる可能性があると指摘しています。かつてソ連が担った役割を現在の中国が演じており、米中の二大大国が世界の主要な対立軸となっているというのが氏の見解です。
現在の世界には、米国と中国という二つの突出した超大国のみが存在し、これら二国間の対立が明確な「冷戦状態」を生み出しています。習近平国家主席の指導下で、中国がマルクス・レーニン主義的なルーツを再び強調するようになったことで、米中のイデオロギー的な違いは一層鮮明になりました。一方で、米国は一党独裁ではなく、法の支配が機能する二大政党制であり、この点が中国との根本的な相違点です。
技術開発における競争、そして台湾や南シナ海を巡る伝統的な地政学的な対立など、米中両国は様々な領域で激しく衝突しています。この第二冷戦はまだ始まったばかりですが、現在世界で起こっているほとんどの出来事は、程度の差こそあれ、この米中対立という枠組みの中で理解することができます。
歴史的な類似点として、ロシアによるウクライナ侵攻は、1950年に勃発した朝鮮戦争に似ているとファーガソン氏は分析します。朝鮮戦争が世界が二つの陣営に分断されたことを示したように、ウクライナを支持する国々とロシアを支持する国々の顔ぶれは、おおむね1950年代初頭に韓国と北朝鮮をそれぞれ支持した国々と重なります。
また、中東も冷戦の重要な舞台となってきました。歴史上特に重要だった出来事の一つが、1973年10月6日に始まった第四次中東戦争です。そのちょうど半世紀後となる2023年10月6日の翌日に、ハマスがイスラエルへの奇襲攻撃を仕掛けたことは、中東が依然として大国の影響を受ける舞台であることを示唆しています。
中国・北京の天安門広場にて、式典に出席する習近平国家主席。米中「第二冷戦」のキーパーソン。
ソ連崩壊後の1991年頃から、習近平氏が権力を掌握した2012年、そしてトランプ氏が初めて大統領選に勝利した2016年までを「新冷戦へと至る戦間期」と捉えると、一連の流れがより明確に理解できるでしょう。この戦間期は、金融危機やテロ攻撃に見舞われつつも、比較的平穏な時代だったと言えます。
しかし、現在の第二冷戦は始まったばかりであり、前回の冷戦のように米国が最終的な勝利を収めるという保証はどこにもありません。米中の覇権争いは今後も世界の政治、経済、技術情勢を大きく左右していくと考えられます。