2021年10月に出版された元漫画家たつき諒氏の著書『私が見た未来 完全版』(飛鳥新社)をきっかけに、インターネット上で急速に拡散した「日本大災難説」が注目を集めていました。特に2025年7月5日が「Xデー」として取り沙汰され、トカラ列島近海で続く群発地震などとも関連付けられ警戒感が高まっていましたが、当日、日本全土を襲うような大規模な自然災害は発生しませんでした。
この予言説の根拠となったのは、1999年に発売されたたつき氏の漫画『私が見た未来』の復刻版である『完全版』の解説ページやあとがきに記された内容です。特に、帯に大きく記載された「本当の大災難は2025年7月にやってくる」というキャッチコピーが、この説を一気に広める火種となりました。(※現在、飛鳥新社の公式サイトでは文言が一部修正されています)
本書の解説ページには、たつき氏が「夢で見た」という具体的なビジョンが記されています。それによれば、「日本とフィリピンの中間あたりの海底がボコンと破裂(噴火)」し、「太平洋周辺の国に大津波が押し寄せ」、その津波の高さは「東日本大震災の3倍」にも達するというものです。この夢を見た日として「2021年7月5日4:18AM」と明記され、さらに「作者あとがき」では、「夢を見た日が実現化するならば、次にくる大災難の日は『2025年7月5日』」と記述されていました。この記述が、「2025年7月5日に巨大災害が起きる」という予言として広く受け止められることになります。
たつき諒氏の予言漫画『私が見た未来 完全版』の書籍カバー(飛鳥新社より)。2025年7月5日の大災難予言の根拠とされた本。
この内容はYouTubeや各種SNSを通じて爆発的に拡散しました。いわゆる「予言の日」である7月5日が近づくにつれて、その影響は現実社会にも及び、特に観光業界では深刻な打撃を受ける事態が発生しました。香港や台湾、韓国など海外にもこの予言説は広がり、一部の航空会社では減便の対応が取られたほどです。国内の観光地でも、外国人観光客を中心に宿泊キャンセルが相次ぎ、閑散とする場所も見られました。テレビ朝日の報道によると、ある専門家は、こうしたインバウンド客の減少などによる経済的損失規模を5600億円と試算しています。
こうした状況に対し、気象庁は公式サイトなどで「現在の科学的知見では、日時・場所・規模を特定した地震予知は困難」であるとの見解を改めて示し、「7月5日大災難説」が科学的根拠に基づかない「デマ」であることを強調しました。しかし、予言当日となった7月5日には、SNS上で「予言の日」「予言の時間」「日本滅亡」といった関連ワードがトレンド入りするなど、多くの人々の間で予言の的中に対する不安が広がっていた様子がうかがえました。
結局、懸念されたような大規模な災害は発生せず、「Xデー」は何事もなく過ぎ去りました。SNS上では安堵の声が広がった一方で、「大きな混乱を招いた」「不安を煽った」として、予言の発信元であるたつき氏や書籍を出版した飛鳥新社に対し、責任を問う声や批判的な意見も一部で上がっています。
本誌は7月7日、出版元である飛鳥新社に対して取材を試みました。本書がきっかけで観光事業に深刻な影響が出ていることなど、一部で責任論が出ていることへの見解を求めたところ、同日夕方に文書で回答がありました。「当社といたしましては、そのような事象について、特定のコメントをする立場にはございませんので、ご了承いただきますようお願い申し上げます」というのが同社の公式な見解でした。
また、本書の内容、特に「2025年7月5日」という具体的な日付の扱いを巡っては、著者であるたつき氏自身の主張も注目を集めています。たつき氏は6月15日に文芸社から発売した自身の自伝『天使の遺言』の中で、『私が見た未来 完全版』のあとがきに記された「次にくる大災難の日は『2025年7月5日』」という記述について言及しています。自伝の中で氏は、「過去の例から『こうではないか?』と話したことが反映されたようで、私も言った覚えはありますが、急ピッチでの作業で慌てて書かれたようです」と、編集側とのやり取りを示唆する形で説明。その上で、「夢を見た日=何かが起きる日というわけではないのです」と強調しています。
さらに、7月4日に「Smart FLASH」で配信された本人インタビューでは、より踏み込んだ発言をしています。インタビューの中でたつき氏は、『完全版』は「私の書いた文言ではないし、注目されたのは私の漫画のことではないので、まったく他人事のような感覚が拭えません」と述べ、特に注目を浴びた帯の文言については「編集(者)によって書かれたもので、それが注目を浴びてしまった形です」と明かしていました。
そこで飛鳥新社に対し、たつき氏のこうした主張の事実確認、および今後、問題視されている帯の文言を修正・変更する予定があるかについても改めて質問しました。これに対する飛鳥新社の回答は以下の通りです。「『帯の文言は編集(者)によって書かれたもの』との点についてですが、帯に関しては書籍の宣伝物として、当社にて作成し、必ず著者の確認を得たうえで出版しております。この点については、同書に限らず、当社のすべての書籍において、書籍のカバーや帯を含む全ての内容について、著者と相談し、確認を取る形で進行しております」。
たつき氏の「帯の文言は編集者が書いた」という主張に対し、飛鳥新社は「著者の確認を得て作成している」と回答しており、両者の間で認識の食い違いが見られます。予言の日は過ぎましたが、この予言とその影響、そしてその発生源を巡る議論は、まだしばらく尾を引く可能性がありそうです。