長野県松本市教育委員会は、市立中学校で発生した二つの事案に関する調査報告書を公表した。学校側の不適切な対応や初期対応の遅れが原因で、生徒が不登校になり、自殺未遂に至った事案と、別の生徒がいじめにより心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された事案を認定。いずれも「いじめ防止対策推進法に基づく重大事態に準じる対応が必要」として、第三者委員会が調査を進めていた。
松本市教育委員会が入る市役所大手事務所の外観
市教委が8日に公表した報告書詳細によると、2023年度に発生した事案では、女子生徒(当時1年)が学校側の不適切な対応により不登校となり、自殺を図った。この生徒には持病や発達特性があり、中学校進学前から小学校長と進学先の中学校教頭による支援会議が開かれていた。しかし、会議に出席した中学校教頭がその内容を関係者へ適切に共有しなかったため、女子生徒への配慮が必要な事項が担任教諭や養護教諭らに伝わっていなかった。
教師の不適切指導と学校内連携の不備
中学校に進学後、女子生徒は担任教諭の強い言葉に恐怖心を抱くようになり、登校できない日が増加。次第に学校に対する拒否反応を示すようになり、自宅で自殺を図ったとされている。調査委員会は、担任教諭が「生徒を『お前』と呼ぶなど、荒々しい言葉や差別的な発言、高圧的な態度で指導していた」と認定。「子どもを一人の人格のある人間として対等に接しようとする資質に欠けている」と厳しく指摘した。
また、校内で支援会議の内容が共有されなかったことについても、「校内体制の不適切さを象徴しており、看過できるものではない」と批判。調査委員会の聞き取りに対し、教頭は「どの範囲で知らせるか迷った。今回の情報は共有しておけばよかったと、今は思う」と話しているという。
別の「いじめ重大事態」認定と初期対応の遅れ
市教委はさらに、2022年度に別の女子生徒(当時中学1年)が、同級生2人との人間関係を原因として不登校となり、PTSDと診断された事案についても発表した。この事案もいじめ重大事態として、別途調査委員会が設けられていた。
報告書によれば、加害生徒は女子生徒に対し、LINEグループ内で一方的に責め立て、誹謗(ひぼう)中傷や脅迫とも受け取れるメッセージを継続的に投稿していた。加えて、女子生徒は前髪を切ることを強要されたり、顔に落書きをされたりし、その様子がLINEで拡散されたという。調査委員会はこれらの行為をいじめと認定した。
この事案について、調査委員会は「学校側の初期の組織的対応の遅れがいじめの重篤化を招いた一因」と指摘している。女子生徒の保護者から学校に最初の相談があったのは2023年1月だったにもかかわらず、学校が市教委に報告したのはその4カ月後だったことが明らかになった。
市長のコメントと今後の課題
臥雲義尚市長は記者会見で、今回の事案について「当事者となった保護者や生徒には極めてつらい状況を強いた」と述べ、深く陳謝した。そして、「関係者すべてが反省し、今後はこうしたことがないように、取り組みにつなげていく必要がある」と強調。再発防止に向けた決意を示した。今回の報告書は、学校現場における生徒支援体制の構築、教職員の資質向上、そしていじめや問題発生時の迅速かつ適切な組織的対応の重要性を改めて浮き彫りにしている。