7月20日投開票の参院選が3日に公示され、各党が選挙戦を展開している。そうした中で、参政党の神谷宗幣代表は第一声で「日本人ファースト」を強く訴えた。しかし、その演説内容には、生活保護制度に関する外国人を標的としたヘイトスピーチと見られる発言が含まれており、物議を醸している。
類似するヘイトスピーチの内容
以下に示す二つの演説内容を比較すると、その共通点が明らかになる。一つは、過去に東京都知事選に立候補した人物の発言だ。「外国人が平然と日本で生活保護を受け取る。これはよその国では絶対にあり得ないんです。ところが皆さんは外国人には優しくしなきゃいけないとこれを認めている。じゃあ日本人はどうするんですか。福岡では日本人がおにぎりを食べたいといって餓死している。日本人は生活保護を無理やり打ち切られている。こんなおかしな社会は変えていかなければいけないんです」。
もう一つは、2024年10月の衆院選で公認候補の応援に駆けつけた際の参政党代表、神谷宗幣氏の発言である。「貧困家庭が増え、高齢者の暮らしも貧しくなっている。さらに年金の受給を遅らせたら、本当に死んでしまう。そのくせ外国人をどんどん受け入れて、生活保護を出してるなんてむちゃくちゃだ。日本人に死ねって言ってるのかよというくらい憤りを覚える。そもそも生活保護は日本人に出すものだ。外国へ行って、お金がないからといって日本人に生活保護をくれるんですか。なんで日本だけが払わなければならないのか。喝上げされてるみたいじゃないか」。
どちらも生活保護行政への批判を装いながら、「外国人のせいで日本人が不利益を被っている」と主張し、外国への敵対心や排斥感情を露骨に煽る内容となっている。これは典型的なヘイトスピーチの構造である。
かつて前者の演説を行った人物は、ヘイト団体を率い、差別的なデモを繰り返し行ってきた人物として知られている。つまり、国政政党の代表が、そうした人物と全く同じ種類のヘイトスピーチを行っていたことになる。
事実に反するデマと意図的な煽動
さらに問題なのは、これらの主張が事実に基づかないデマである点だ。日本において、さまざまな権利が制限されている外国人が、日本人より生活保護などで優遇されているという事実は存在しない。実際には、経済的に困窮した定住外国人に対する扶助制度は欧米の先進国では一般的であり、日本も批准する国際人権条約の一つである社会権規約において、社会保障における内外人の平等な扱いが義務付けられている。
国会議員である神谷氏がこれらの国際的な基準や国内の実情を知らないとは考えにくい。したがって、彼は意図的に虚偽の情報を広め、レイシズムを煽動していると見られる。その主張は、「生活保護を外国人に支給すべきではない、つまり日本人でなければ死んでも構わない」という極めて恐ろしい帰結を含んでいる。
参院選公示日、川崎市での応援演説で「日本人ファースト」を訴える参政党 神谷宗幣代表
参政党は、先の衆院選では「日本をなめるな」というスローガンを掲げた。これは、自分たちの問題が「日本で甘い汁を吸っている外国人」のせいだとし、団結して彼らにやり返そうというメッセージとして受け取れる。政治の失敗を棚上げし、人々の不満や喪失感につけ込もうとする魂胆が見え隠れしていた。筆者はかつて、「神奈川県民をなめるな」と題した記事で、こうしたヘイトデマに騙されないよう有権者に呼びかけたことがある。
しかし、参政党は衆院選で比例区において複数の議席を獲得した。これは、かつての「キワモノ」と見られていたヘイトスピーチを行う人物とは異なり、スーツを着て議員バッジをつけた現役の政治家が語る「もっともらしく聞こえる」扇動が、一定の有権者に影響力を持つことを改めて示した。そして今回の参院選で、彼らが掲げているのが「日本人ファースト」なのである。
結論
参政党の神谷宗幣代表による生活保護に関する発言は、事実に基づかないデマであり、外国人を標的としたヘイトスピーチの典型的な特徴を示している。これは、過去に悪名高いヘイトスピーチを繰り返した人物の手法と酷似しており、国会議員という立場を利用して意図的に虚偽を広め、社会的な弱者である外国人に対する排斥感情を煽る行為は、政治家として極めて問題が大きい。今回の参院選における「日本人ファースト」というスローガンと関連付けて、こうしたヘイト言説が日本の政治や社会にどのような影響を与えるのか、引き続き注視が必要である。