天皇皇后両陛下が国賓としてモンゴルをご訪問されました。特に7月8日は、日本国内で特別な思いでこの日を迎えた元日本兵がいます。神戸市に住む友弘正雄さん（100歳）です。両陛下のモンゴル訪問、特に慰霊碑へのご訪問に、元モンゴル抑留兵である友弘さんは深い願いを寄せています。これは、歴代天皇で初めてとなるモンゴル訪問と、あまり知られていない歴史が交差する重要な出来事です。
両陛下のモンゴルご訪問と歓迎式典
7月8日午前、モンゴルの首都ウランバートルに到着された天皇皇后両陛下は、ウランバートルの中心部にあるスフバートル広場で大統領夫妻に出迎えられ、歓迎式典に臨まれました。この式典には、モンゴル出身の大相撲の元横綱である朝青龍さん、白鵬さん、日馬富士さんも出席し、両陛下は元横綱たちに温かい言葉をかけられました。今回のモンゴル訪問は、日本の天皇として初めてのことであり、両国関係における歴史的な意義を持っています。
モンゴルを訪問中の天皇皇后両陛下、歓迎式典で元横綱らと談笑
元モンゴル抑留兵 友弘正雄さんの願い
神戸市に住む友弘正雄さん（100歳）は、今回の両陛下のご訪問を心待ちにしていました。友弘さんは、第二次世界大戦後にモンゴルに抑留されていた元日本兵です。テレビのニュースで両陛下の姿を見つめながら、彼は涙を流しました。友弘さんにとって、両陛下がモンゴルを訪問されること、そして特に抑留者たちの慰霊碑に行かれることは、最も重要なことでした。「陛下が慰霊碑に行かれるのだけは、この目で確かめておきたい。天皇が行かれるのが一番なんですから。天皇の兵隊やねんから」と、友弘さんは語ります。
神戸市に住む元モンゴル抑留兵、友弘正雄さん（100歳）が両陛下のご訪問を待つ
「モンゴル抑留」とは
第二次世界大戦の終戦直後、ソビエト連邦は満州などにいた57万人以上の日本兵や一部の民間人をシベリアなど各地の収容所へ連行しました。これは「シベリア抑留」として広く知られています。
第二次世界大戦後、シベリアなどへ連行された日本人抑留者たち
一方で、あまり知られていないのが「モンゴル抑留」です。約1万4000人の日本人が、約2年間にわたってモンゴル国内で抑留されました。過酷な環境下での強制労働や飢餓、病気により、多くの命が失われました。友弘さんは、当時の生活を振り返り、「あの時、生きるのは精一杯で。『あしたは死ぬかも分からんな。今度は俺の番かな』と思いながら、なんとか生きて帰りたいな」と思っていたと語っています。
あまり知られていないモンゴル抑留、約1万4000人が過酷な生活を送った
友弘さんの抑留体験とウランバートルの足跡
友弘さんは満州でソ連軍の捕虜となり、鉄道やトラックに乗せられてモンゴルへ移送されました。道中、冬の厳しい寒さの中で足が凍傷にかかり、病院に到着した時には切断せざるを得ない状態だったといいます。約2年間に及んだ抑留生活では、インフラ整備や建設作業などの強制労働に従事させられました。
モンゴルへの移送中、厳しい寒さで凍傷を負った元抑留兵
6年前、友弘さんが抑留体験の記憶を辿るためにモンゴルを訪問した際には、取材班も同行しました。日本から約3000キロ離れたウランバートル市内には、抑留者たちが建設に携わった建物が今も残っています。友弘さんは、オペラ劇場や映画館など、当時の記憶をたどりながら、「抑留者がつくった」「多分、ここも建てた」と語り、過酷な労働の足跡が街に刻まれていることを示しました。
ウランバートル市内に残る、日本人抑留者が建設した建物（オペラ劇場か映画館）
両陛下のご訪問に込められた慰霊の思い
友弘さんのように、モンゴル抑留という過酷な歴史を生き抜いた人々がいます。彼らは筆舌に尽くしがたい苦難を乗り越え、日本の復興を見守ってきました。天皇皇后両陛下の今回のモンゴルご訪問が、歴史の事実を顧み、モンゴルで犠牲となった抑留者たちを追悼する慰霊の旅となることに、多くの元抑留兵やその遺族が特別な思いを寄せています。友弘さんの「慰霊碑に行かれるのだけは確かめたい」という切なる願いは、モンゴル抑留の真実を記憶にとどめ、平和への祈りを未来へ繋げたいという普遍的な願いを象徴しています。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/269a2d3e1acfc84c6407eabe99937b71b91363da
