元刑事が語る「犯罪者の顔」:メディアの印象と捜査の視点

殺人事件などの凶悪事件が発生するたび、メディアには被疑者の顔写真が掲載されます。多くの場合、その顔つきは「危険人物」「悪人」といった印象を与えるものに見えがちです。静岡県浜松市で発生したガールズバー店員殺害事件で逮捕された男の映像もまた、「危ない人物」という印象を見る者に与えました。なぜ、このように「犯罪者らしい顔」というイメージが定着しているのでしょうか。長年、凶悪事件の捜査に携わってきた元刑事S氏が、その背景にあるメディアの特性や捜査現場の視点について語りました。

メディアと被疑者の印象:見る側の先入観

元刑事S氏によると、メディアで使われる被疑者の顔写真は、意図的かそうでないかにかかわらず、見る側に「危険人物」や「悪人」という印象を与えやすいものが選ばれる傾向があるといいます。これは、写真を見る側に「この人物が犯人(ホシ)だ」という強い先入観があるため、無意識のうちにその顔を「犯罪者」として見てしまうことが影響しています。また、警察で撮影される「被疑者写真」についても、しばしば「犯罪者の顔だ」と言われることがあるとS氏は指摘します。

元刑事が語る「犯罪者の顔」の特徴を表すイメージ画像元刑事が語る「犯罪者の顔」の特徴を表すイメージ画像

指名手配犯のポスターに並ぶ顔ぶれも、どれもこれも凶悪犯に見えるのはそのためかもしれません。S氏は、その理由を「人間、悪さをすると明らかに表情に出るからだ」と説明します。特に、事件を起こした直後の犯人は、顔を見ればすぐにわかると、数多くの現場を経験したS氏は断言します。他の元刑事たちからも、「殺人事件を起こした犯人は独特の顔をしているから見ればわかる」という話を耳にすることがあります。

特に顕著な「目つきの違い」

多くの元刑事が共通して挙げる、犯人の顔つきの特徴は「目」です。「目が違う」というのです。S氏がその「目」を表現するならば、「イってしまっている目だが、薬をやっているような目とは違う。血走っていて、焦点が合っているようで合っていない目だ」といいます。逮捕され、護送される際の被疑者の映像では詳細まで見えにくいことが多いですが、元刑事たちの証言からは、被疑者の目は尋常ではない状態にあることがうかがえます。

現行犯逮捕であれば、その場で血走った目をした被疑者と対峙することになるため、その異様さは想像に難くありません。しかし、被疑者が逃走した場合、時間が経過すれば落ち着きを取り戻し、目の違いはわからなくなるのではないかという疑問も湧きます。この点についてS氏は、「何年も逃亡し、普通の日常生活を送っているような被疑者なら、目の印象は変わってしまうだろう。だが、短期間の逃走であれば、被疑者はまだ『犯罪者の目』をしている」と語ります。

顔つきだけではない「刑事の勘」と捜査の重要性

目つき以外に、犯人だと見抜く手がかりはあるのでしょうか。S氏は、「『ピンとくる』というのはある」と答えます。うまく言葉で表現するのは難しいそうですが、「普通じゃない」「何か感じるものがある」といった直感的な感覚、いわゆる「刑事の勘」のようなものだといいます。

しかし、S氏は強調します。顔つきや目つきの違いだけで被疑者を特定するわけでは断じてない、と。逮捕や取り調べに至るまでには、顔の印象だけでなく、あらゆる証拠や情報を積み重ねる徹底的な捜査が不可欠です。「自分の印象だけで決めつけてはいけない。無実の人間を犯罪者にすることは絶対にできないからだ」と、S氏はプロフェッショナルとしての強い責任感を語りました。

このように、「犯罪者の顔」というイメージは、メディアによる写真の選択、見る側の先入観、そして事件直後の被疑者に現れる独特の表情や目つきによって形成されます。しかし、捜査の現場では、見た目の印象はあくまで手がかりの一つであり、科学的証拠と綿密な捜査こそが真実を明らかにする唯一の方法なのです。

参考資料