7月11日、韓国ソウル市永登浦区の大林洞で、極右勢力による「中国人追放」などを叫ぶヘイトデモと、これに対抗する人権・市民社会団体による共存と連帯を訴える集会が衝突した。中国同胞の密集地域であるこの街で、度重なる極右の街頭活動に直面した移住者たちは、「私たちに何の力があるのか、ただ何もできないと感じるだけだ」と無力感を露わにした。この出来事は、韓国社会におけるヘイトスピーチと差別問題、そしてそれに対する市民の抵抗を浮き彫りにしている。
韓国の極右勢力による大林洞での集会
この日、大林洞では、保守系ユーチューバー「リバーチューブ」などの極右団体の関係者らが、中国出身の移住民追放や尹錫悦前大統領の復権などを要求する集会を開いた。「オンリー尹(Only Yoon)」「尹アゲイン(Yoon Again)」などの文言が書かれた赤い鉢巻きや帽子などを着用した30人ほどは午後7時30分ごろ、地下鉄大林駅11番出口の近くに集結し、大型の太極旗と星条旗を振った。これらの者たちは「尹アゲイン」「習近平アウト」「不正選挙清算」などのシュプレヒコールを叫びながら、ポラメ駅まで行進した。一部の参加者は露骨な嫌中発言を叫んだりもした。
2024年7月11日、韓国ソウル大林洞で「中国人追放」「尹アゲイン」を叫ぶ極右保守派の集会参加者たち
集会を主催した「リバーチューブ」は8日、自身のソーシャルネットに投稿した予告掲示で「華僑コミュニティーは既得権そのもの」だとしたうえで、「華僑の本拠地で『尹アゲイン』を叫ぶ大胆さを示せば、彼らが後に反国家行為を(できないようにする)強力な警告になるだろう」と主張した。これに先立ち4月にも、ソウルの別の中国出身移住民の密集地域である広津区紫陽洞の「羊肉串通り」の近くでも、極右団体「自由大学」の会員たちが「尹アゲイン」を叫び、集会と行進を行った。
共存と連帯を訴える市民社会の反撃
しかし、中国同胞や移住民に向けられた激しい憎悪(ヘイト)の叫びばかりが大林洞に鳴り響いたわけではなかった。これらに対抗して、共存と連帯の声を上げようとする人たちが街頭を埋め尽くしたからだ。極右勢力が大林洞に押しかけるという知らせを聞きつけ、差別禁止法制定連帯、境界人の声と役割研究所、プラットホームC、中国同胞一つの心連合会総会、民主労働党など、人権・市民社会団体や政党など70あまりの組織・団体が開いた緊急記者会見には、「尹アゲイン」のデモ参加人数を軽く超える200人あまりが、「中国系移住民は私たちの友達」「ヘイト・差別アウト!」などのプラカードを持って集まった。一部の参加者は「差別に反対する。ここは共存と歓待の大林洞」という文言を中国語に訳した小型のプラカードを取り出した。
韓国ソウル大林洞でヘイトデモに対抗し「極右勢力は出ていけ」と訴える人権・市民社会団体の緊急記者会見
大林駅の周辺には「差別禁止法制定で移住民へのヘイト表現を防ごう」などの文言が書かれた横断幕も多数掲げられた。
韓国ソウル大林洞の大林駅周辺に掲げられた差別禁止法制定を求める横断幕
移住者コミュニティと支援者たちの声
記者会見に参加した中国同胞や移住民は、自分たちに向けられたヘイトの扇動が、12・3非常戒厳後に激化したことに強い懸念を示した。「境界人の声と役割研究所」のパク・ドンチャン代表は「4月に広津区の『羊肉串通り』で、極右勢力が口にするのもはばかられる罵声を浴びせながら暴れたときから、『ヘイトの連鎖』を断ち切らなければ大林洞でも同じことが繰り返されるという懸念が中国同胞の間で広がっていたが、結局は今日のようなひどい状況に向き合うことになった」と述べた。
「中国同胞一つの心連合会総会」のキム・セグァン会長は「私たちは何の根拠もなしに誰かの怒りを代わりにぶつけられる対象ではなく、この土地で働き、同じように税金を払い、子どもを育てて生活している普通の隣人だ」と述べた。
ソウル大林洞でのヘイト反対集会にてスピーチを行う中国同胞一つの心連合会総会のキム・セグァン会長
移住労組のウダヤ・ライ委員長も「移住民同胞にとって、韓国は故郷のようなところだが、移住労働者は『雇用を奪う存在』『潜在的犯罪者』などとみなされ、攻撃を受けている」として、「極右勢力が移住民の密集地域で『ここから出ていけ』と叫び、ヘイトを扇動することは、明らかな人種差別的行為であり、韓国社会には何の役にも立たない」と述べた。
ヘイトに対抗する闘いを支えようとする一般市民の声も続いた。「九老や永登浦地域の学校に配属されて以来ずっとここで生徒たちと共にしている教師」だと明らかにしたハン・チェミンさんは「最近、中国から来てまもない生徒が『韓国語がうまくできなかったら差別を受けるのですか』と尋ねてきたが、うまく答えることができなかった。他の生徒たちに助言を求めると、ある生徒が『君と友達になるたくさんの人たちのうちの一人が私だよ』と答えた」として、「差別を問う言葉に友情で答えた生徒たちから、連帯する方法を学んだ。極右デモ隊に警告する。最後まで残るのは、ヘイトに対抗する人たちの連帯と友情であることをよく学んで帰れ」と言った。
憎悪扇動阻止に向けた制度的代案の必要性
極右勢力のヘイト扇動を防止する制度的代案を至急設けなければならないという要求も出てきた。差別禁止法制定連帯のジオ共同執行委員長は「ヘイトを量産する集団によって、明日の朝も店を開くのが怖いと感じる(移住民が密集する)地域の住民たちにとっては、差別とヘイトに向き合わなければならないその日その日が、生活していくことのリスク」だとして、「李在明大統領が強調する『民生』のためにも、差別禁止法の制定が急がれる」と述べた。
この日、ソウル大林洞は、排他的なヘイトスピーチを叫ぶ極右勢力と、共存と人権を守ろうとする市民社会の連帯の場となった。移住者コミュニティが直面する深刻な差別と無力感の声、そして支援者たちの力強いメッセージは、ヘイト扇動が単なる意見表明ではなく、人々の日常生活を脅かす行為であることを示している。こうした憎悪の連鎖を断ち切り、移住者を含むすべての隣人が安心して暮らせる社会を実現するため、差別禁止法の早期制定が強く求められている。