怒りやイライラはなぜ生まれる?満たされない心が向かう先「外化」の心理学

家族や隣人、同僚へのイライラが、時に深刻な事件につながることは少なくありません。なぜ私たちは負の感情を抱えやすく、そうでない人との違いはどこにあるのでしょうか。心理学者の加藤諦三氏は著書『人はどこで人生を間違えるのか』で「怒りの外化」という概念を提示し、自己の内なる不満が外部へ向かう心理メカニズムを分析しています。本稿では、この「外化」を中心に、イライラの根源を探ります。

内なる不満を外部に映し出す「怒りの外化」

自分が望む結果が得られない時、人は強いフラストレーションを感じます(新商品不振、書いた本が売れないなど)。「思うようにいかない自分」へのイライラは、時に無意識のうちに外部へ向けられます。これが加藤氏の言う「怒りの外化」です。本来の原因である自己の状況を認められない時、周囲にイライラします。企画部長が部下やテレビ解説者に、著者が家族や友人にイライラするのはその典型です。この状態が続くと体調不良も。また、イライラを抑圧した反動として、外面的な従順さが増す「反動形成」として表れることもあります(「外で子羊、家で狼」など)。

自己否定的な人が不条理な怒りの標的となる心理

常軌を逸した過剰な怒りは、しばしば自己の内なる怒りの外化が原因です。些細な出来事への極端な非難や、期待通りにならない他者への理不尽な罰などが典型です。隣家の音に過剰な怒りを感じるかも内的な状態に関わります。このような怒りでは、自分自身の不満や失敗への苛立ちが外部へ投影されています。

ストレスや怒りを感じ、頭を抱える人物のイメージ写真ストレスや怒りを感じ、頭を抱える人物のイメージ写真

この不条理な怒りの標的となりやすいのは、真面目で自己反省する傾向のある人です。非難された側は、励まされるどころか、惨めさや罪悪感を感じます。非難する側の目的は相手を不快にさせるかのようです。加藤氏も引用する杉田氏の分析によれば、これは自己否定的な人と他者否定的な人の組み合わせで生じやすく、自己反省できる人ほど投影された怒りの「カモ」にされやすいのです。

「ありたい自分」とのギャップが人間関係の軋轢を生む

自分が「こうありたい」という理想や他者への期待が高いと、満たされない時に自己否定や苛立ちが生じます。読者からの手紙に「家族が自分の思い通りにならないと腹が立つ」「人に対して私の思うように接してくれないと腹が立つ」「主人に対しても完璧を求めてイライラする」とあるのはその例です。理想や他者コントロール願望が満たされないフラストレーションが家族に表出しています。同時に「他人の目ばかりが気になる」「相手に合わせるばかりで疲れる」とあり、自己肯定感の低さや評価への過敏さが内なる不満を募らせ、イライラとして噴出している可能性を示唆。なりたい自分になれない苦悩が、人間関係に影を落とします。

このように、日常的なイライラや他者への不条理な怒りの根源には、自分自身の内なる不満や、理想と現実とのギャップ、あるいは満たされない自己肯定感といった心理的な要因が深く関わっています。「怒りの外化」というメカニズムを理解することは、自分自身の感情や、周囲の人の言動の背景にある心理を見つめ直す一助となるでしょう。

参考文献

  • 加藤諦三『人はどこで人生を間違えるのか』(幻冬舎新書、2022年)