筆者が愛読する書籍の一つに、日本の伝統的な行動規範を紹介する『武士道』があります。この本を贈呈された2000年代初頭、日本がこれほど長く経済的な停滞期に入るとは、まだ誰も想像していませんでした。当時話題の中心にあったのは、日本のゴルフ会員権価格の驚くべき暴落でした。かつて熱狂に沸いた1980年代のバブル経済と、現代日本の根底に流れる精神性「武士道」には、どのような関連があるのでしょうか。
1980年代:ゴルフ会員権に沸いた日本の熱狂
1980年代の日本経済は熱狂に包まれ、ゴルフ会員権は単なる施設利用権を超え、売買可能な資産として驚異的な価値を持つようになりました。市場には「指数」まで登場し、その異常な高騰ぶりを示唆していました。1982年から1989年にかけて平均価格は400%上昇、さらに1989年から1990年には190%もの急騰を見せ、銀座ゴルフサービス(後のジージーエス)のような企業は大いに利益を上げました。ピーク時には3億円から4億円で取引される会員権も存在し、日本の不動産バブルの象徴の一つとなりました。
日本のバブル期における高騰したゴルフ会員権と日本の経済停滞を象徴するゴルフコース
バブル崩壊、そして現代の市場動向
当然ながら、このゴルフ会員権バブルは避けられない崩壊を迎えました。日本の「失われた30年」の始まりを告げるかのように、価格は暴落し、多くの投資家に打撃を与えました。一方、今日の米国市場では異なる経済トレンドが見られます。米コンサルティング会社ゴルフ・プロパーティー・アナリスツの報告によると、米国のゴルフ会員入会費は2019年以降、年平均23%で上昇しており、特にドナルド・トランプ氏所有のマール・ア・ラーゴ・リゾートクラブでは過去1年間で43%もの値上がりが記録されています。この対照は、日米の経済状況と資産価値観の違いを浮き彫りにしています。
日本の深層に息づく「武士道」の精神
経済的な浮沈を経験してもなお、日本社会には中世以降、武士階級で発達した「武士道」という独自の倫理規範が深く根付いています。これは欧州の騎士道とは異なり、例えば英国の歴史家モーリス・キーンの著書『Chivalry』で詳述される騎士道が、当初騎士間の暴力抑制を目的としたのに対し、武士道はより広範な行動や精神のあり方を律するものです。この気高い精神は現代の多くの日本人の心にも生きており、日本が極めて強い社会規範によって行動が律される、ユニークな国であり続ける理由の一つとなっています。
結論:停滞を超え、独自性を保つ日本
日本の経済停滞と、かつてのゴルフ会員権バブルの熱狂は、過去の教訓として私たちに多くの示唆を与えます。しかし、経済的な波乱を経ても、日本は武士道に代表される独自の社会規範と文化的な強固さによって、そのユニークな存在感を保ち続けています。これは単なる経済指標では測れない、日本の精神的な深さと社会構造の強靭さを示しており、グローバルな視点から見ても特筆すべき点と言えるでしょう。