日本防衛白書2025:日韓関係改善と東アジア安全保障への視点

日本政府は2025年版防衛白書において、韓国を「国際社会におけるさまざまな課題への対応にパートナーとして協力すべき重要な隣国」と位置づけ、2年連続でその重要性を強調した。これは尹錫悦政権下で進んだ日韓関係の改善、特に2018年に発生した哨戒機問題の鎮静化が大きく影響しているとみられる。一方で、日本固有の領土であるとする竹島(韓国名:独島)の領有権に関する主張は、21年間にわたり継続している。

日韓関係の進展:「重要な隣国」としての位置づけ

今回の防衛白書で、日本が韓国を「重要なパートナー」と2度目の言及をした背景には、両国間の防衛当局関係の修復がある。かつて日韓関係を停滞させた「哨戒機問題」は、2018年12月20日に東海で発生した。韓国海軍の駆逐艦「広開土大王」が遭難した北朝鮮漁船を救助中に、日本の海上自衛隊の哨戒機が接近。韓国側は哨戒機による威嚇飛行を主張し、日本側は「広開土大王」による火器管制レーダーの照射があったと主張し、対立が長期化していた。

2025年版防衛白書の表紙。日韓関係や北朝鮮、中国に関する日本の防衛政策の動向を示す。2025年版防衛白書の表紙。日韓関係や北朝鮮、中国に関する日本の防衛政策の動向を示す。

この対立は、昨年6月にシンガポールで開催されたシャングリラ会合において、当時の申範澈(シン・ウォンシク)韓国国防部長官と日本の木原稔防衛相が「艦艇と航空機間の安全距離維持」など再発防止策で合意したことで鎮静化に向かった。

防衛協力の強化と多角的連携

2025年版防衛白書は、日韓両国の友好的な軍事協力の強化を特に強調している。昨年6月のシャングリラ会合での日韓防衛相会談は、「日韓二国間の安全保障協力が、両国に裨益するだけでなく、強固な日米韓安全保障協力の基礎となり、自由で開かれたインド太平洋の実現のために不可欠である」との認識で一致した。

さらに、日韓防衛当局間の懸案事項については、両大臣が海幕長と韓国海軍参謀総長の間で作成された「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES: Code for Unplanned Encounters at Sea)」の遵守などを含む文書を踏まえ、平時に海上で遭遇した場合の安全確保で一致したことが明記された。CUESは、相手国艦艇や航空機に艦砲、ミサイル、火器管制レーダーなどを照準する行為を避けるという国際的な行動規範である。

また、昨年7月には当時の木原防衛相と申国防長官が、参謀総長級の相互訪問再開や捜索・救助共同訓練の再開などに合意。その3カ月後には、韓国合同巡航訓練戦団が約6年ぶりに日本に寄港した。この際には、就任したばかりの中谷元防衛相が韓国軍の最新型大型揚陸艦「馬羅島(マラド)」に乗艦するなど、関係改善の具体的な動きが見られた。

防衛白書は、安保・防衛分野における日韓関係の重要性を「北朝鮮の核・ミサイル問題をはじめ、テロ対策、大規模自然災害への対応、海賊対処、海洋安全保障など、日韓両国を取り巻く安全保障環境が厳しさと複雑さを増すなか、日韓の連携は益々重要となっている」と強調している。

「固有の領土」竹島問題の継続

一方で、日本政府は今年の防衛白書においても、インド太平洋の安全保障環境に言及する中で、竹島に対する日本の領有権を主張し続けている。白書には「我が国固有の領土である北方領土や竹島(日本が主張する独島の名称)の領土問題が依然として未解決のまま存在している」と明記された。この主張は2005年以降、21年間一貫して防衛白書に盛り込まれている。

また、防衛白書の「日本周辺の海・空域での警戒・監視」地図では、領海を示す実線の中に竹島を含んで表示され、周辺国の安全保障環境に関する項目においても「竹島を巡る領土問題」という表現が用いられている。

北朝鮮の脅威とロシアとの連携

北朝鮮に対しては、昨年と同様に「我が国の安全保障にとって、従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威になっている」と指摘された。白書は特に、「ロシアのウクライナ侵攻が続く中、北朝鮮はロシアへの軍事協力を強化している」として懸念を示している。具体的には、「2023年以降、弾道ミサイルを含む武器・弾薬をロシアに対して供与しているほか、2024年10月には、北朝鮮兵士がロシア東部へ派遣されたことが確認され、派遣された兵士は、ウクライナに対する戦闘に参加するに至った」と詳細に説明している。

中国の軍事力拡大と「戦略的挑戦」

中国に関しては、「これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の防衛力を含む総合的な国力と同盟国・同志国などとの協力・連携により対応すべきものだ」と強調している。

白書は、中国が「核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心に軍事力の質・量を広範かつ急速に強化している」と指摘。東シナ海や南シナ海における力または威圧による一方的な現状変更とその試みを強化しているほか、日本海や太平洋などでも、日本の安全保障に影響を及ぼす軍事活動を拡大・活発化させていると記述している。

結論

2025年版防衛白書は、日韓関係の改善と防衛協力の進展を評価しつつも、竹島問題における従来の立場を維持するという、日本の多層的な外交・防衛政策を反映している。同時に、北朝鮮の脅威の増大、特にロシアとの軍事協力強化に対する懸念、そして中国の急速な軍事力拡大と地域での活動活発化を「最大の戦略的挑戦」と位置づけるなど、厳しさを増す東アジアの安全保障環境に対する日本の認識と対応が明確に示された。これらの内容は、地域全体の平和と安定に向けた今後の日本の防衛政策の方向性を読み解く上で不可欠な情報となるだろう。


参考文献