先進国で異例の多産を続けるイスラエル:少子化傾向に逆行する「超特異国家」の深層

世界中の多くの先進国が少子化に直面し、人口減少の危機感が高まる中、イスラエルは驚くべき例外として、その出生率を上昇させ続けています。晩婚化や女性の社会進出が進む先進国では、一般的に出生率の低下が見られますが、イスラエルはなぜこの世界的トレンドに逆行し、「子だくさん」の国であり続けているのでしょうか。本記事では、イスラエルの特異な社会構造と、少子化が進まない背景にある複数の要因を深掘りします。

世界の潮流に反するイスラエルの出生率の現状

現代の多くの先進国、そして一部の途上国においても、女性が生涯に産む子供の数を示す「合計特殊出生率」は低下の一途を辿っています。経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均出生率は「1.5」と、人口を維持するために必要とされる「2.07」には遠く及びません。これは、各国が抱える少子高齢化問題の深刻さを物語っています。

多くの先進国で晩婚化や女性の社会進出により低下する合計特殊出生率のトレンドを示すグラフ。多くの先進国で晩婚化や女性の社会進出により低下する合計特殊出生率のトレンドを示すグラフ。

しかし、イスラエルはこの世界的な傾向に真っ向から反し、過去30年間にわたり出生率を上昇させてきました。2023年には驚異的な「2.84」に達し、先進国の中では突出した高水準を維持しています。この数字は、イスラエルが単なる例外ではなく、「超特異国家」と称される所以です。

過去30年間で出生率が上昇し、2023年には2.84に達したイスラエルの特異な傾向を示すデータ。過去30年間で出生率が上昇し、2023年には2.84に達したイスラエルの特異な傾向を示すデータ。

宗教的価値観が支える高い出生率

イスラエルの高い出生率を語る上で、まず挙げられるのが、超正統派ユダヤ教徒の存在です。彼らがイスラエル人口に占める割合は全体の約12%に過ぎませんが、その出生率は2020年から2022年の間で「6.48」という驚異的な数値に達しています。超正統派ユダヤ教においては、子供を多く持つことが信仰上の重要な価値観とされており、この伝統的な教えが彼らの多産に深く影響しています。

高い出生率を持つ超正統派ユダヤ教徒の家族。伝統的な価値観が子だくさんを奨励するイスラエルの要因。高い出生率を持つ超正統派ユダヤ教徒の家族。伝統的な価値観が子だくさんを奨励するイスラエルの要因。

また、宗教的マイノリティーもイスラエルの高出生率に寄与しています。イスラエル人口の約20%を占めるイスラム教徒女性の2022年の出生率は「2.87」と、これも他の先進国と比較して非常に高い水準です。

世俗的ユダヤ人も多産?見過ごせない「宗教以外の」要因

注目すべきは、超正統派以外のユダヤ人(正統派ユダヤ教徒や世俗的なユダヤ教徒)の出生率も「2.45」と高い点です。さらに、自分を「世俗的」と考える女性だけを見ても、2020年から2022年の出生率は「1.96」に達しており、これは多くの先進国の平均を上回る数値です。

イスラエルにおけるイスラム教徒や世俗的ユダヤ人など、宗教的マイノリティーの女性も高い出生率を維持している様子。イスラエルにおけるイスラム教徒や世俗的ユダヤ人など、宗教的マイノリティーの女性も高い出生率を維持している様子。

イスラエルでは、住居費が特別安いわけでも、子育て支援が他国より格段に手厚いわけでもありません。教育水準や女性の就労率を見ても、他の先進国と同様に女性が出産数を減らしてもおかしくない状況にあります。しかし、これらの一般的な少子化要因に反して出生率が高いのは、宗教的な要因だけでは説明しきれない、イスラエル独自の文化的・社会的背景が存在することを示唆しています。この「宗教以外の」要因が何であるのかは、さらに深掘りすべきテーマと言えるでしょう。

世俗的ユダヤ人女性の出産状況を示すデータ。経済的・社会的な一般的な要因を超えて高い出生率を維持するイスラエルの社会構造。世俗的ユダヤ人女性の出産状況を示すデータ。経済的・社会的な一般的な要因を超えて高い出生率を維持するイスラエルの社会構造。

結論:イスラエル型「多産社会」が示唆するもの

イスラエルは、宗教的価値観の根強さに加え、世俗的な層においても相対的に高い出生率を維持している点で、世界の先進国の中でも非常に特異な存在です。教育水準の向上や女性の社会進出といった現代社会のトレンドが少子化を加速させる中で、イスラエルが「多産社会」を維持している背景には、単一の理由では説明できない多層的な要因が絡み合っていることが示唆されます。このイスラエルの事例は、少子化問題に直面する他国、特に日本のような国々にとって、人口維持の可能性を探る上で貴重な示唆を与えるかもしれません。