AI技術の進化は目覚ましく、私たちの社会に深く根差し始めています。脳科学者の茂木健一郎氏は、「テクノロジーは日常生活をサポートする存在であり、『新しいことを試すのは面倒』と感じる年配の方ほど、積極的に活用すべきだ」と提言しています。
特に60代以降の方々にとって、AIを学ぶ重要性は個人の脳の活性化にとどまりません。なぜなら、AIが日本社会にもたらす影響は、歴史上「第三の黒船」と呼べるほどの大きな転換点となり得るからです。
日本の歴史を変えた二度の「黒船」
日本はこれまで、二度の大きな外圧によって社会構造を根本から変革してきました。
一度目は幕末期、ペリー率いる黒船が江戸湾に姿を現したことです。この出来事は鎖国体制を終焉させ、日本を近代化の道へと強力に押し出しました。国家の枠組み、産業、文化に至るまで、あらゆる面で変革が求められ、日本は開国と近代国家建設へと舵を切ったのです。
二度目は第二次世界大戦の敗戦後、GHQ(連合国軍総司令部)による占領統治です。これにより、日本は民主主義を導入し、経済大国としての道を歩み始めました。政治制度、教育、経済システムなどが大幅に改革され、戦後の復興から高度経済成長へと繋がる基盤が築かれました。
AIは社会に深く浸透し、新たなチャンスをもたらす
そして今、私たちの目の前に現れているのが、まさしく「第三の黒船」とも言うべきAIです。これまでの二度とは異なり、今回は軍事力ではなく、革新的なテクノロジーが日本社会全体を根底から変革しようとしています。AIがもたらす変化は、過去のような政治や制度の変革に限定されません。仕事のあり方、教育システム、そして日々の暮らしのあらゆる側面に深く浸透していくでしょう。AIの影響を全く受けずに生活できる人はほとんどいなくなるほど、その普及スピードは速く、社会全体に広がっています。
もちろん、AIを自身の人生や仕事にどのように取り入れるかは個人の自由な選択です。しかし、この変革期を受け入れ、積極的にAIを使いこなすことを選べば、その恩恵を最大限に享受することが可能になります。重要なのは、AIという新たな「黒船」の到来を、脅威としてではなく、むしろ未曽有のチャンスとして捉えることです。このような前向きな姿勢が社会全体に浸透すれば、過去二回の黒船来航がそうであったように、日本は再び新たな成長の時代を迎えることができるでしょう。デジタル技術の活用は、これからの社会で不可欠な要素となっていきます。
高齢者がタブレットを操作し、AI技術の活用に前向きな姿勢を示す
結論
AIの台頭は、日本にとって歴史的な転換点であり、特に高齢世代にとっては新たな学びと可能性の扉を開く機会です。この「第三の黒船」を脅威ではなく、チャンスとして捉え、積極的にデジタル社会に適応していくことが、個人にとっても国家にとっても、持続可能な成長と発展に繋がる鍵となります。未来を見据え、AIを賢く活用する姿勢が今、求められています。
参考文献:
本稿は、茂木健一郎『60歳からの脳の使い方』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。