日本社会が抱える問題の一つ、「ゴミ屋敷」。これは単に片付けができない状態ではなく、住人の孤独や生活の変化が深く関わっていることが多い。大阪府でゴミ屋敷清掃を手掛ける専門業者「イーブイ」代表の二見文直氏が目にした衝撃的な事例を紹介する。約30年間住みながら一度も掃除をしなかったという部屋、特に浴室の凄まじい状態。50代の男性住人が語る、部屋が「ゴミ屋敷」と化した背景と、片付けによって見いだした希望とは。
玄関から広がる異様な光景
その部屋は外から見ると、窓辺に多少の荷物が見える程度で、内部の惨状を想像させるものではなかった。しかし、一歩玄関を入ると、足の踏み場もないほどの新聞紙が散乱していた。入ってすぐ左手の和室は、かつて生活空間として使われていた形跡があったが、無数の本が積み上げられ、今にも崩れ落ちそうだった。購入した当時の手提げ袋に入ったまま天井近くまで達する本の山もあったという。
本の山の奥には、衣服の山が築かれていた。壁際には棚やタンスなどの家具が置かれているはずだったが、それらも服や他のモノに完全に埋もれてしまっていた。そして、部屋の中でも特に衝撃的だったのが浴室だ。住人が入居してから約30年間、一度も清掃されなかったというその空間は、想像を絶するほどの汚れが付着していた。しかし、男性はそれでもシャワーを浴びたり、洗面台を使用したりしていたという。
30年間一度も清掃されなかったゴミ屋敷の浴室。ひどい汚れとカビが付着した洗面台と浴槽の一部。
「何もしたくない」と心が折れた瞬間
この部屋に住む50代の会社員男性は語る。「しばらくはこの部屋(和室)で寝ていたんですが、途中で布団も敷けなくなってしまって。都度ゴミを動かしながらほぼ風呂場の前で寝ていました」。部屋が散らかり始めたのは、約10年前に同居していた友人が突然退去してしまったことがきっかけだったという。
「それを機にいろいろ嫌になり、荷物が増えていきました。それでも最初は自分で片付けをしたり自炊をしたりしていたんですが、だんだんと“何もしたくない”と思うようになってしまいました。ここ5年で一気に散らかってしまいました」と男性は振り返る。友人との別れが、彼の心に深い変化をもたらし、部屋の状態に直接的に影響していったのだ。
モノがゴミとなり、生活を圧迫
部屋が極限まで散らかると、いったい何がどこにあるのか、住人自身にも分からなくなってしまう。必要だと感じたモノを買い足しても、それらは部屋の中に埋もれて見つけられなくなる。結果として同じものを再び購入するというサイクルが生まれ、モノは増え続け、やがて生活空間を奪う「ゴミ」と化していった。
このような状態では、自力での片付けは不可能に近い。男性は長年、散らかった部屋の中で孤独を抱えながら生活を送ってきた。しかし、専門業者である「イーブイ」に依頼し、部屋を片付けることを決意したとき、彼の人生に新たな光が差し込んだ。長年のゴミと決別することで、物理的な空間だけでなく、心の重荷からも解放され、前向きな一歩を踏み出すきっかけを見いだしたのである。
この事例は、単なる片付けの問題ではなく、人生の転機や心の状態が部屋の状態に深く影響することを物語っている。専門業者による片付けは、物理的な空間を回復させるだけでなく、住人が新たな一歩を踏み出すための大きなきっかけとなる。孤独を乗り越え、希望を見出す道は、決して閉ざされているわけではないのだ。
出典: Yahoo!ニュース / 東洋経済オンライン