1975年に『秘密戦隊ゴレンジャー』が誕生して以来、スーパー戦隊シリーズは半世紀にわたる歴史を刻んできました。子どもたちのヒーローとして常に輝き続けるこのシリーズには、おなじみの「お約束」が存在します。例えば、リーダーは赤、女性戦士はピンクであることが多い、巨大化した敵には合体ロボットで挑む、そしてそれぞれが色分けされたスーツを身につける、といった点です。しかし、これらの色分けや構成人数が、作品ごとに異なるのはなぜでしょうか。今回は、その50年の歴史に隠された秘密を、東映のプロデューサー白倉伸一郎氏の言葉を交えながら深掘りします。
スーパー戦隊の「お約束」と進化:女性ブラック戦士の登場
スーパー戦隊シリーズといえば、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクという『ゴレンジャー』を基調としたカラーリングが一般的です。しかし、シリーズが進化するにつれて、ホワイトやブラックといった新たな色が加わることも珍しくありません。また、「女性ヒーローはピンク」という固定観念も、必ずしも当てはまらないケースが増えています。その最たる例が、今期放送中の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』に登場する、スーパー戦隊シリーズ史上初の“女性ブラック戦士”です。
こうした構成人数やカラーリングの決定には、一体どのような理由があるのでしょうか。スーパー戦隊や仮面ライダーシリーズなど、数多くの特撮作品を手掛けてきた東映のプロデューサー、白倉伸一郎氏に伺いました。若手俳優の登竜門としても知られるスーパー戦隊シリーズでは、オーディションが非常に熾烈な戦いとなるため、「2番目に優秀な女優をイエローにしよう」とか、「この俳優はイエローよりブラックが似合うから変更しよう」といった配役や配色の調整がなされるのではないか、という問いに対して、白倉氏はきっぱりと否定します。「いえ、オーディションの段階で男女比はすでに決まっているので、行き当たりばったりにはなりません」と。
色の決定プロセス:合体ロボットからの逆算と発色の課題
それでは、スーパー戦隊の色の組み合わせは、どのように決まっていくのでしょうか。そこには、技術的な側面と作品の完成形から逆算する、という独自の方法がありました。
合体ロボットからの色の逆算
白倉氏が語る「ベタなのは、合体ロボットの完成形から逆算する方法」とは、具体的にどのようなものでしょうか。例えば、戦士一人ひとりが車や飛行機などの色違いのメカを持ち、それらが「車は脚、飛行機は右腕」といった形で合体して巨大ロボットとなる場合、そのロボットが完成したときのカラーバランスが非常に重要になります。このロボットの配色をもとに、実際の等身大キャラクターたちのスーツの色が決まることが多いというのです。ヒーロー個々の色だけでなく、最終的な合体形態の美しさやバランスが考慮されていることは、特撮ファンにとっては興味深い事実でしょう。
スーパー戦隊のカラフルなヒーロースーツ
製作陣を悩ませた「グリーン恐怖症」の真相
歴代作品のカラーリングを見ると、レッドとブルーがほぼ皆勤賞であるのに対し、グリーンは実はブラックと大差がないほど少ないという傾向が見られます。このグリーンの戦士がメイン色として少ない理由について、白倉氏は「製作陣の間では、かつて“グリーン恐怖症”と呼ばれ、グリーンを極力使わないようにしていた時期がありました」と明かします。
この「グリーン恐怖症」には、主に二つの理由がありました。一つ目は、発色の問題です。グリーンは衣装の素材として、良い色味の生地がなかなか手に入らないという課題がありました。染めようとしても染料に対応していない素材が多く、また塗装しても剥がれやすいことがあったのです。特に、戦隊スーツに多用されるタイツ地は、生地の制約を受けやすい素材です。二つ目の理由は、合成処理の都合です。スーパー戦隊シリーズでは、背景を合成する際にグリーンバック(クロマキー合成)を多用します。この際、ブルーとグリーンが同じ画面にいると、“抜け”(背景と同化してしまう現象)が発生しやすく、非常に扱いづらい色だったのです。このように、モチーフやデザインだけでなく、撮影技術的な制約もカラーリングの決定に大きく影響していたことがわかります。
構成人数の秘密:奇数を好み、ストーリーを深く描く
カラーリングの秘密に続いて、構成人数が3人だったり5人だったりする理由についても白倉氏は言及しています。「最低構成人数は3人と決めていて、なるべく奇数にしようとしています」という白倉氏の言葉は、単なる偶然ではない、綿密なストーリー構成の意図を示唆しています。
実は、ストーリー構成的には3人編成のほうが描きやすいというのです。5人の場合、一人ひとりのキャラクターを順番に登場させて掘り下げようとすると、全員が揃うまでに最低でも5話は必要になります。これは序盤のキャラクター紹介としては有効ですが、その後の日常パートで5人全員を毎回登場させようとすると、個々のキャラクターを深く掘り下げる余裕が少なくなってしまいます。その点、3人構成であれば、30分の放送時間の中で10分ずつ、しっかりと各キャラクターを描き分けることが可能となり、結果としてより深みのある人間ドラマを展開しやすくなる、という製作側の視点があるのです。
結論
スーパー戦隊シリーズのカラフルなヒーロースーツや、謎に包まれたメンバー構成の裏には、合体ロボットの最終的な美しさ、衣装素材や撮影技術の制約、そして何よりも「キャラクターの魅力を最大限に引き出す」という製作陣の深い配慮と専門的な知識が隠されていました。長年にわたり子どもたちに夢を与え続けてきたスーパー戦隊シリーズは、単なるヒーロー番組に留まらず、綿密な計画と技術的な課題を乗り越えて進化を遂げてきた、まさに日本の特撮文化の結晶と言えるでしょう。これからも、その奥深い世界観とキャラクターたちが、多くのファンを魅了し続けることでしょう。
参考文献: