石破首相、参院選大敗後も続投の意思表明:「赤心奉国」の真意と辞任ができない複雑な背景

2025年7月21日、参議院選挙での自民党と公明党の大敗から一夜明けた記者会見で、石破茂首相は自民党総裁として「今、最も大切なことは、国政に停滞を招かないこと。比較第一党としての責任を果たしていかねばならない」と述べ、続投の意思を表明しました。この発言は、かつて2007年の参院選で大敗した安倍晋三首相に対し、石破氏自身が辞任を迫った過去と対照的であり、国内外から大きな注目を集めています。

参院選大敗後の石破首相の決断と党内外の反応

18年前、改選議席を大幅に減らした当時の安倍首相に「なぜ続投するのか?」と問い詰めた石破氏が、今回自身が同じ境遇に立たされながら続投を決めたことに対し、党内からは厳しい声が上がっています。ある旧安倍派の衆議院議員は「立場が変わればこれか。衆院選、都議選、参院選と3連敗したのに続投などありえない。石破のままだと自民党は終わる」と憤りを露わにし、落選中の元衆議院議員も「5度目の挑戦でようやく手に入れた首相の座を手放すはずがない。辞めない理屈はあるだろうが、石破が辞めることこそ、国益にかなう唯一の道」と批判しました。筆者自身も、首相が「死に体」と化したと感じており、その言葉が持つ説得力に疑問を抱かざるを得ません。

「赤心奉国」に込められた石破首相の多層的な意図

しかし、石破首相は続投の考えを表明した上で、「赤心奉国の思いで国政に当たる」とも語りました。「赤心奉国」とは、誠意を込めて国のために尽くすという意味です。これは、衆参両院で少数与党となった現状において、野党側と丁寧に議論し、政策を前に進めていくという決意表明と解釈できます。

石破首相、参院選大敗後も続投の意思表明:「赤心奉国」の真意と辞任ができない複雑な背景

参議院選挙での大敗を受け、記者会見の冒頭で深々と頭を下げる自民党総裁・石破茂首相。続投表明の背景にある複雑な政治情勢を示す象徴的な一枚。

一方で、筆者が在京メディアの報道プロデューサー時代、何度も番組にお招きし、話す中で感じてきた、石破氏の気さくで誠実な人柄からすれば、この言葉は地位に恋々とするのではなく、「国政に支障をきたさない時期になれば潔く身を退く。そこまでは頑張る」という意味にも解釈できるでしょう。これは、彼の側近が「続投はしても、長く続けるわけじゃない」と示唆していることとも符合します。

石破首相が直ちに辞任できない具体的要因

参院選投開票日以降、自民党の国会議員や政治記者と話をする中で、石破首相がすぐに辞任できない複数の要因が浮上しています。

まず、今後の重要な政治日程が挙げられます。

  • 7月31日:自民党両院議員懇談会
  • 8月1日:アメリカ・トランプ大統領が設定した関税猶予の期限
  • 8月1日:臨時国会召集
  • 8月6日:広島原爆の日
  • 8月9日:長崎原爆の日
  • 8月15日:戦後80年となる終戦記念日

これらの日程の中で、特に8月1日のトランプ政権との関税交渉が大きな焦点です。この交渉がまとまらなければ、日本からアメリカへの輸出品に最大25%もの関税が課される可能性があります。自動車分野が交渉の最大の対立点であることに変わりはなく、この分野で着地点を見出せない限り、これまで交渉を続けてきた石破首相が退陣すれば、交渉途中に放棄する形になってしまいます。また、首相が辞意を表明した瞬間、トランプ大統領が石破首相を交渉相手と見なさなくなる可能性も高く、党内外から激しい辞任要求に晒されても、「辞める」とは言えない立場にあると言えるでしょう。

さらに、今年は広島・長崎への原爆投下、そして太平洋戦争終結から80年という節目の年であり、各地で重要な記念式典が続きます。これらの式典に首相が欠席することは許されません。加えて、消費税率の引き下げ一つとっても、「食料品だけ」「いや、全て引き下げ」などと意見が分かれる野党が、立憲民主党を中心にまとまれるかどうかも見極める必要があります。

こうした複合的な要因を考慮すると、「引責辞任したくとも、すぐにはできない」というのが、石破首相を少しだけ贔屓目に見た筆者の推測です。国益を優先し、重要な外交・内政課題に一定の目途をつけるまでは、首相の座にとどまる必要性があると考えられます。

参考文献

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