韓国を襲った記録的な豪雨は、甚大な水害をもたらし、治水政策、特に「4大河川再自然化」を巡る議論を再燃させています。かつての大統領選挙で、堰(せき)の撤去や川底の浚渫(しゅんせつ)を柱とする4大河川事業の見直しを公約に掲げた李在明氏の政策が、現実の豪雨被害を前に、与党内部からも浚渫の必要性が唱えられるなど、厳しい状況に直面しています。
忠清南道礼山郡挿橋邑の豪雨による浸水被害状況を示す写真。500ミリ以上の雨量が2日間続き、広範囲が冠水した。
記録的豪雨が韓国を襲う:治水対策の緊急性
16日から17日にかけ、忠清南道一帯には500ミリを超える記録的な豪雨が降り注ぎ、礼山郡挿橋邑(イェサングン・サッブギョウプ)など広範囲で浸水被害が発生しました。この集中豪雨は、韓国全土で水害を引き起こし、国の治水対策のあり方を根本から問い直す契機となっています。特に、河川の堆積物除去や整備の是非が、喫緊の課題として浮上しています。
「浚渫は不可欠」与党内部からも声
豪雨被害の復旧現場では、与党「共に民主党」内部からも浚渫の必要性を訴える声が上がりました。魚基亀(オ・ギグ)民主党議員(忠南唐津)は、忠南礼山での水害復旧現場で、「挿橋川(サプギョチョン)の底に堆積した土砂を浚渫すれば、根本的に洪水を防ぐことができる」と指摘。かつて2メートル以上あった水深が50センチにも満たず、堆積物の影響で西海岸の満潮時に水が逆流し、洪水が発生する実情を説明しました。魚議員は、浚渫には莫大な財源が必要であり、政府の支援が不可欠であると公の場で強調。環境団体からの反対(生態系破壊など)があるものの、公聴会などを経て浚渫を進めなければ、洪水克服は不可能であると訴えました。
大田市の成功事例:積極的浚渫が被害抑制に貢献
今回の集中豪雨で被害が少なかった大田市の事例は、浚渫の有効性を示す具体的な根拠として注目されています。大田市は、市予算172億ウォン(約18億円)を投じ、昨年12月から今年6月にかけて、市内の主要3河川で合計68万トンもの砂や砂利などを除去しました。この大規模な浚渫により、3河川の17.9キロ区間の川底は、50センチから最大1.5メートルも低くなったとされています。
この実績を受け、最大野党「国民の力」は、「4大河川の本流など事前に整備が行われた場所は、大きな被害なく安定的に豪雨に対応できた。4大河川事業の効果が立証された」と主張し、政府・与党に対し、治水対策の再考を強く求めています。
環境保護と治水の狭間:複雑な対立軸
一方で、民主党所属の環境労働委員の間では、「総合的な状況を考慮すべき」という慎重な見解も示されています。金星煥(キム・ソンファン)環境部長官は就任式で、「4大河川の源流から河口まで水の流れの連続性を生かし、自然性を回復する」と述べたものの、16カ所の堰の具体的な処理案には言及していません。ある民主党環境労働委員は、堰の撤去や浚渫は単純な問題ではなく、様々な議論があるとして、金長官の発言を「洪水などの影響を改めて確認するという意味」と解釈し、実用主義的な政府の姿勢に期待を示しています。環境保護と治水の間で、政策決定の難しさが浮き彫りになっています。
歴代政権の試みと課題:解決策は未だ見えず
国政企画委員会もまた、李在明氏が当時大統領選挙公約として掲げた4大河川の堰の解体など、再自然化公約を国政課題として含める案を現在検討中です。国政企画委の関係者は、「まだ(4大河川政策の)確実な方向は決まっていない。最適な案を模索中」と説明しており、依然として明確な方針は定まっていません。
過去には、文在寅(ムン・ジェイン)政権も4大河川の堰の解体を公約に掲げましたが、実現には至りませんでした。2021年1月には数カ所の堰の常時開放を決定したものの、地域住民から干ばつや洪水への対応に堰が必要であるとの強い反発があり、計画は頓挫しました。この経緯は、治水と環境保護、そして地域住民の生活が複雑に絡み合う問題の根深さを示しています。
結論
今回の集中豪雨は、韓国の治水政策、特に「4大河川事業」の是非を巡る長年の議論を再び活性化させました。環境保護を重視する「再自然化」と、人命・財産を守るための「治水」という二律背反の課題は、政治的にも社会的にも複雑な対立を生んでいます。浚渫による効果が示された事例がある一方で、環境への影響も懸念されており、どちらか一方に偏ることなく、多様な視点から最も効果的かつ持続可能な解決策を見出すことが求められています。国民の安全を確保しつつ、生態系との調和を図るための政策決定は、韓国政府にとって依然として重要な課題であり、その動向が注目されます。
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