7月23日に報じられた石破総理の退陣見通しに関するニュースは、政界に大きな波紋を広げました。そうした中、自民党本部では石破総理が麻生最高顧問、菅副総裁、岸田前総理といった歴代総理経験者と会談を実施。会談終了後、石破総理は退陣報道をきっぱりと否定しました。しかし、「退陣」するのかしないのか、石破総理の真の「本音」とは一体何なのか、その背景にはどのような政局があるのか、ジャーナリストの武田一顕氏らの見解を交え、深く掘り下げます。
識者が見る石破総理の「本音」と政局の現実
ジャーナリストの武田一顕氏は、石破総理の「胸の内」について「(そのうち?近々?)辞めるけれど…(今はまだ)辞めない」という見方を示しています。武田氏が石破総理の周辺から聞いた話によると、総理はすでに心が折れており、8月末での退陣を示唆するようなニュアンスを周囲に伝えているのは間違いないようです。しかし、今すぐに辞めてしまうと、政治日程上、非常に厳しい状況に陥ります。8月1日にはトランプ関税の交渉期限が控えており、その後も6日と9日の原爆の日、15日の終戦記念日、さらにはアフリカとの国際会議であるTICADなど、重要な政治イベントが目白押しであり、その間は辞任できない状況です。武田氏は、自民党内には野党に政権を明け渡す「下野論」まで出ているとし、「そんなことをやってもっと混乱したらどうするんだというところで、今は辞めないという状況」と、石破総理を取り巻く政治的制約を説明しました。
歴代総理との会談:党分裂回避への強い危機感
退陣報道から石破総理による否定までの間に、重要な会談が行われました。石破総理、岸田前総理、菅副総裁、麻生最高顧問の4名による約1時間20分に及ぶ会談です。会談後、石破総理は「強い危機感をみんなで共有したこと、党の分裂は決してあってはならないということなど、いろんなお話がございました」と述べ、党内の一致結束の重要性を強調しました。詳細な内容は語られていませんが、武田氏は石破総理の「党の分裂」という言葉から、1993年の細川政権誕生に繋がった自民党分裂の歴史を連想させると指摘しています。
石破総理が自民党本部で麻生・菅・岸田氏ら歴代総理と会談する様子
1993年「自民党分裂」の教訓と石破氏の経験
1993年6月、当時の宮沢喜一内閣に対して提出された不信任案が、自民党の一部議員の造反によって可決され、衆議院解散へと至りました。この時、自民党は自民党本体、新党さきがけ、新生党の3党に分裂。不信任案に造反し離党した議員によって結成された新党さきがけ、新生党などが、その他野党6党と組んで、8党連立政権である細川政権を誕生させるという、日本の政治史における大きな転換点となりました。武田氏は、自由党と民主党という二つの政党が合わさってできた自民党は、元々分裂しやすい特性を持っていると指摘。この歴史的経緯を踏まえ、今回の会談で石破総理ら4人が「自民党が分裂して政権から転落するようなことは避けたい」という点で一致したことが、石破総理の発言の核心であると見ています。
また、1993年当時、石破総理自身が造反した議員の一人でした。この経験があるからこそ、「また分裂してしまう可能性があるということを一番感じているのは石破総理」だと武田氏は語ります。一度党を離れ、再び戻ってきて総理大臣になった例は基本的にはなく、快く思わない自民党議員もいる中で、石破総理自身が離党の経験を持つからこそ、党が分裂することの恐ろしさを誰よりもよく知る人物の一人であると言えるでしょう。
結論
石破総理の退陣報道とそれに続く完全否定、そして歴代総理との会談の裏側には、単なる去就問題を超えた、自民党の結束と政権維持に対する強い危機感が横たわっています。現在の複雑な政治日程と、党内の「下野論」といった現実的な制約が、石破総理の「今は辞めない」という判断に影響を与えています。同時に、彼自身が経験した1993年の自民党分裂という歴史的教訓が、党の分裂を何としても避けたいという強い意志に繋がっていることが示唆されます。石破総理の今後の動向と、自民党内の結束が維持されるかどうかが、今後の政局の焦点となるでしょう。