中国がチベット自治区ニンティ市メトク県で、世界最大規模となる見込みの巨大ダム建設に着手したことが衛星画像により確認され、国際社会に大きな波紋を広げている。このプロジェクトは、湖北省の三峡ダムを上回る規模の国家的なインフラ事業であり、周辺国や環境保護団体からは深刻な懸念が表明されている。習近平国家主席が掲げる2060年までのカーボンニュートラル目標達成に貢献するとされる一方、中国が依然として世界最大の温室効果ガス排出国であるという事実も指摘されている。
チベット自治区を流れるヤルンツァンポ川の雄大な景色、中国が巨大ダム建設に着手
中国が着手する「世紀のプロジェクト」:チベットの超巨大ダム建設
推定1680億ドルという巨額の建設費が投じられるメトクダムは、チベット自治区を流れるヤルンツァンポ川の下流域に位置する。その起工式は7月18日に執り行われ、中国国営メディアCCTVの映像を基に、オープンソース・インテリジェンス(オシント)の専門家ダミアン・サイモン氏が建設現場を特定し、その動向が世界に報じられた。中国のナンバー2である李強首相もこの起工式に出席し、メトクダムプロジェクトを「世紀のプロジェクト」と称賛。同時に、生態系への悪影響を防ぐための厳格な措置の必要性を強調した。
中国政府は、この巨大ダムが国内のグリーンエネルギー生産量を大幅に増加させ、国のカーボンニュートラル目標達成に不可欠であるとの立場を示している。中国外交部の郭嘉昆報道官は7月23日の定例記者会見で、「ヤルンツァンポ川下流域に水力発電プロジェクトを建設することは、中国の主権の範囲内である」と明言。さらに、「中国は越境河川開発において常に高い責任感を持ち続け、水力発電プロジェクトに関しても豊富な経験を有している。計画、設計、建設のすべてが中国の最高基準を厳格に順守しており、広範な生態環境保護を実施している。多くの重要な生態環境に影響がありそうな地域を回避し、本来の生態系を最大限に保全している」と述べ、環境への配慮を強調した。
下流域諸国が抱く深刻な懸念:水資源と安定への影響
しかし、アジアで最も生物多様性に富んだ河川系の一つであるヤルンツァンポ川に建設されるこのダムは、インドおよびバングラデシュの下流に暮らす数千万人の生活に直接的な影響を与える可能性がある。ヤルンツァンポ川はインドに入るとブラマプトラ川と名前を変え、さらにバングラデシュではジャムナ川となり、両国にとって不可欠な淡水資源となっている。
そのため、インドとバングラデシュは、メトクダムが下流の水流、重要な漁業、そして洪水リスクに与える影響について、強い懸念を表明している。特にインドは、協議なく河川の流れが変更された場合、河川流域に暮らす住民の生計や地域の安定性に重大な脅威を与えかねないと主張し、中国に対し透明性と共同管理の必要性を訴えている。この巨大プロジェクトは、環境的側面だけでなく、地域全体の地政学的な安定にも影響を及ぼす可能性を秘めている。
まとめ
中国がチベット自治区で推進する三峡ダムを超える規模の巨大ダム建設は、グリーンエネルギー推進という目的を持つ一方で、下流域のインドやバングラデシュ、そしてグローバルな環境コミュニティから深刻な懸念を引き起こしています。中国政府は主権の範囲内での開発と環境保護を主張していますが、越境河川がもたらす地政学的、環境的課題は、国際的な協力と透明性の必要性を強く示唆しています。この「世紀のプロジェクト」が地域にどのような影響をもたらすか、今後の動向が注視されます。