2025年上半期(1-6月)において、日本の医療機関、特に病院とクリニックの倒産が顕著な増加を見せ、その件数は21件に達しました。これは前年同期比16.6%増という大幅な伸びであり、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中で底を打った2020年以降、5年連続で前年同期を上回る結果となりました。1989年以降では、過去最多を記録した2009年上半期の26件に次ぐ2番目の高水準であり、医療業界全体に深刻な経営悪化の兆候が表れています。中でも注目すべきは、病床数20床以上の病院の倒産が前年同期の2.6倍となる8件に急増した点です。地域の中核を担う中堅・大規模病院の苦境が鮮明になり、日本の医療体制の持続可能性に警鐘を鳴らしています。
医療機関倒産件数の動向:コロナ禍からの連続増加
2025年上半期における病院・クリニックの倒産件数は21件となり、これはコロナ禍前の2019年の17件を上回る数値です。2020年にはコロナ関連支援策に支えられ9件に半減したものの、その後は増加傾向に転じ、2024年には18件、そして2025年には21件と、上昇の一途を辿っています。この5年連続での増加は、医療機関が一時的な支援では賄いきれない構造的な課題に直面していることを示唆しています。特に、20床以上の病院の倒産が8件と急増したことは深刻で、過去15年間で最多を記録しました。このうち従業員50人以上300人未満の中堅規模が6件、さらに従業員300人以上の大規模病院も2件発生しており、規模の大きい医療機関ほど厳しい経営環境に置かれている現状が浮き彫りになっています。
経営悪化の背景:コスト増と収益構造の課題
医療機関の経営を圧迫する主な要因は複数あります。まず、独立行政法人福祉医療機構(WAM)によるコロナ禍でのゼロゼロ融資の返済がピークを迎え、資金繰りの負担が増大しています。これに加え、物価高騰が診療報酬の上昇を上回るペースで進行しており、収益の悪化を加速させています。医師や看護師などの人件費高騰は医療機関にとって避けられないコストであり、入院患者の食材費や光熱費、施設の維持管理費も上昇の一途を辿っています。これらのコスト増に対して診療報酬が追いつかず、医療業務におけるコストと収益のバランスが崩れ、多くの医療機関が採算悪化に追い込まれています。
地域医療の未来:中核病院の苦境と医療空白のリスク
今期の倒産では、特に地域医療の中核を担う病院の経営破綻が目立ちました。負債額10億円以上が5件、従業員50人以上300人未満が8件、300人以上が2件と、いずれも前年同期から大幅に増加しています。これは、地域社会にとって不可欠な大規模医療機関が、人口減少による患者数や働き手の減少に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足、医療設備の老朽化といった複合的な課題に直面しているためです。採算の悪化は、質の高い医療サービスの提供を困難にし、地方を中心に「医療空白」エリアが拡大する現実的な懸念が高まっています。これは、地域住民の医療アクセスを著しく損ねる事態へと繋がりかねません。
倒産の内訳:原因、形態、負債額、従業員規模別分析
2025年上半期における医療機関の倒産状況を詳細に分析すると、その原因の66.6%(14件)が「販売不振」でした。これは、患者数の減少や診療単価の伸び悩みなど、根本的な収益力の低下が背景にあることを示しています。次いで「既往のシワ寄せ」が3件(14.2%)、「他社倒産の余波」が2件(9.5%)と続きます。倒産形態は、全21件が再建型ではない「破産」であり、経営再建が極めて困難な状況であったことが伺えます。負債額別では、「1億円以上5億円未満」が8件で最多ですが、「10億円以上」の大型倒産が5件と前年同期の1件から急増しており、より規模の大きな医療機関の破綻が増えている傾向が見られます。従業員数別では、前年同期1件だった「50人以上300人未満」が8件、さらに「300人以上」も2件発生しており、中堅から大規模の医療機関における経営難が深刻化していることが明確です。
まとめ
2025年上半期における病院・クリニックの倒産件数の急増は、単なる経済的変動にとどまらず、日本の地域医療体制が抱える構造的な脆弱性を浮き彫りにしています。物価高、人件費高騰、診療報酬の限界、そしてコロナ禍で猶予されていた債務の返済開始など、複数の要因が複雑に絡み合い、医療機関の経営をかつてないほど厳しくしています。特に、地域の中核を担う大規模病院の破綻は、住民の医療アクセスに直接的な影響を与え、医療空白地域の拡大という深刻な社会問題を引き起こす可能性があります。この状況は、日本の医療提供体制の維持と強化のために、喫緊の対策が求められていることを強く示唆しています。
参考文献:
- Yahoo!ニュース: 2025年上半期 20床以上の病院倒産が急増 「病院・クリニック」倒産21件、5年連続で前年同期を上回る (2025年7月26日掲載記事を基に作成)