日米関税交渉の深層:自動車関税と巨額投資、日本の多大な譲歩

22日に合意に至った日米関税交渉の詳細が、複数の政府関係者への取材により明らかになりました。特に焦点となった自動車関税を巡る交渉では、ドナルド・トランプ米大統領の強硬な姿勢が目立ち、赤沢亮正経済再生担当相は米国への投資額や利益配分で大幅な譲歩を強いられ、最終的に15%での合意にこぎ着けました。しかし、日本側が求めた「相互関税」の10%までの引き下げは実現せず、全体として日本側が押し込まれる形となりました。

自動車関税交渉の全貌と日本の譲歩

最大の懸念事項であった25%の自動車への追加関税引き下げに向け、トランプ大統領は会談で、関税率の引き下げを20%までしか認めないという強硬な主張を貫きました。これに対し、赤沢経済再生担当相は、後述する米国への巨額な投資積み増しや利益配分の大幅譲歩を「ディール(取引)」材料として提示することで、かろうじて15%での合意を得ました。しかし、日本側が要求していた米国からの「相互関税」の10%までの引き下げは、トランプ大統領が「15%までしか認められない」と譲らなかったため、見送られる形となりました。

医薬品・半導体分野における交渉の難航

自動車分野以外でも、トランプ米政権が検討中だった医薬品や半導体分野への関税についても、赤沢氏は15%の関税率を主張しました。しかし、トランプ大統領はこれに難色を示し、最終的な合意は「日本を他国に劣後する形で扱わない」という曖昧な表現にとどまりました。こうした分野別の関税は国によって税率が変わるケースが少なく、今回の成果が実質的にどの程度のものかは見極めが難しい状況です。

対米投資と利益配分:日本の負担増大

日米関税交渉における重要な「ディール」材料となったのが、政府系金融機関が支援する日本企業による米国への投資額です。当初、赤沢氏は4000億ドル(約59兆円)を提案しましたが、日本側が許容範囲としていた5000億ドル(約74兆円)を上回り、最終的には5500億ドル(約81兆円)への積み増しを余儀なくされました。さらに、この投資による利益の配分についても、赤沢氏が日米で50%ずつとする割合を提案したにもかかわらず、関税率を引き下げるために、最終的に米国が90%を得る形での妥結となりました。これは、米国が交渉において非常に優位な立場にあったことを明確に示しています。

交渉の舞台裏:日本の戦略とトランプ氏の説得

自動車関税の引き下げを巡る交渉は、赤沢氏が21日に米商務長官であるラトニック氏と約3時間にわたり会談を行った時点で、既に大筋で固まっていました。この会談で両者は、翌日のトランプ大統領との会談でどのような「カード」を切るかについて、想定問答も確認していたといいます。日本政府関係者は、「あえて米側への投資額や利益配分は少ない数字で最初に提案した。トランプ氏の要求に応じて積み増すことで、トランプ氏が『勝ち取った』形にしないと納得しないからだ」と、交渉戦略の一端を明かしています。

日米関税交渉の深層:自動車関税と巨額投資、日本の多大な譲歩

日米関税交渉合意後、握手するトランプ米大統領と赤沢亮正経済再生担当相

投資案自体も、自動車、造船、エネルギー、半導体、重要鉱物など9分野にわたる具体的な計画が5月中旬には既に米側に伝えられており、6月の時点でラトニック氏からは大筋で了承を得ていたとされています。

農産物市場開放の追加と合意への道のり

しかし、ラトニック氏を通じてトランプ大統領を説得する作業は難航しました。最終的に、トランプ大統領が特にこだわっていた日本の農産物市場開放について、外国産米を無関税で輸入する既存の「ミニマムアクセス(MA)」制度の枠内で最大限拡大する案を追加で盛り込むことで、ようやく合意の見通しが立ちました。政府関係者からは、「トランプ氏を説得するのに時間がかかった。もっと早く合意できていれば、(石破茂政権の成果となり)参院選で与党が過半数を取れたかもしれない」という声も聞かれ、政治的な影響にも言及されています。

まとめ

今回の日米関税交渉は、自動車関税の引き下げを巡る日本の粘り強い交渉と、米国への巨額の投資、そして利益配分での大幅な譲歩によって辛うじて合意に至りました。トランプ大統領の強硬な交渉姿勢が強く反映された結果であり、日本にとっては多大な経済的負担を伴うものとなりました。医薬品や半導体といった他分野での合意も限定的であり、今後の日米経済関係において、日本がいかに国益を守っていくかが問われることになります。

参考文献