近年、オンラインカジノの利用による摘発事例が日本国内で相次いでおり、その社会的な広がりと深刻さが浮き彫になっています。特に注目を集めたのは、フジテレビの元バラエティ制作部企画担当部長が常習賭博の罪で逮捕・起訴された事件です。この一連の出来事は、ギャンブル依存症(ギャンブル症)が個人とその家族に与える多大な苦痛を改めて認識させるものとなりました。長年、ギャンブル依存症の患者とその家族を支え続けてきた精神科医で作家の帚木蓬生氏は、その著書『ギャンブル脳』(新潮新書)の中で、この病気の恐るべき実態を詳細に綴っています。本記事では、オンラインカジノを巡る摘発事例を深掘りしつつ、専門家の視点から見たギャンブル依存症の根深さに迫ります。
オンラインカジノやギャンブルに没頭する人々のイメージ画像:ギャンブル依存症の深刻な実態
フジテレビ元部長の逮捕とオンラインカジノ蔓延の実態
フジテレビ元バラエティ制作部の鈴木善貴元担当部長(44)は、今年6月に常習賭博の疑いで警視庁に逮捕され、その後、常習賭博の罪で起訴されました。捜査関係者によると、鈴木氏は約5年前から職場の先輩に誘われてオンラインカジノでの賭博を始め、昨年9月から今年5月にかけて約1億円もの大金を賭けていたとされています。他の芸能人やスポーツ選手などによるオンラインカジノ利用の摘発事例も報告されていますが、鈴木氏のケースが特に悪質と判断され身柄拘束に至ったのは、その金額が突出して多く、常習性が認められたためです。
鈴木氏はフジテレビ入社当初から、競艇や競輪といった合法的なギャンブルに深くのめり込み、負けが込むにつれて消費者金融や仕事関係者からも借金をするようになっていたと言われています。毎月の給料がその返済や新たなギャンブルに消える「自転車操業」状態に陥っており、こうした背景が違法なオンラインカジノに手を出すきっかけとなった可能性が指摘されています。一攫千金を狙って借金を清算しようとした結果、さらに深みにはまってしまったと推測されます。山本賢太元アナウンサー(27)も同様にオンラインカジノで約640万円を賭けたとして書類送検され、賭博の罪で略式起訴されています。これらの事例は、オンラインカジノが社会に及ぼす影響の深刻さを物語っています。
ギャンブル依存症の恐るべき真実:脳への影響
帚木蓬生氏は、著書『ギャンブル脳』の中で、ギャンブル依存症(同書では「ギャンブル症」と表記)の危険性を鋭く指摘しています。特筆すべきは、その依存の度合いや嗜癖の強度が、薬物依存やアルコール依存をも上回るとされる点です。一般的な薬物やアルコール依存では、外部からの化学物質が脳に作用することで依存が形成されますが、ギャンブル症の場合、外部からの薬物が脳に入ることはありません。にもかかわらず、脳自体がギャンブルという強烈な刺激を伴う反復行為によって変質してしまうのです。
化学物質による依存の場合、その物質の脳への侵入を断つことで、脳は時間をかけて回復に向かいます。もちろん、物質を渇望しながらの復元ではありますが、回復の道筋は存在します。しかし、行為の反復によって脳内に形成された「ギャンブル症の回路」は、そう簡単には元には戻りません。脳の内部崩壊とも言えるこの状態は、その回路を薄くするために多大な困難を伴います。単に反復行為を止めるだけでは回路は薄くならず、極めて根深く、厄介な病気なのです。この恐ろしい病気がさらに問題を複雑にするのは、その「患者」がなかなか社会の中で可視化されにくいという点にあります。表面上は通常の生活を送っているように見えても、内面では深い苦悩を抱えているケースも少なくありません。
結び
オンラインカジノを巡る一連の逮捕・起訴は、違法ギャンブルの蔓延とその背後にあるギャンブル依存症の深刻な実態を社会に提示しました。特に、精神科医である帚木蓬生氏が指摘するように、ギャンブル依存症が脳自体を内部から変質させる、薬物やアルコール依存よりも根深い病気であるという事実は、私たちに強い警鐘を鳴らしています。この病気は周囲から見えにくく、患者自身も問題を認識しにくいケースが多いため、社会全体でその危険性を理解し、早期の発見と適切な支援体制の構築が喫緊の課題と言えるでしょう。
参考資料
- Yahoo!ニュース: 「フジテレビ元部長逮捕で考えるギャンブル依存症の怖さ『薬物やアルコールより強い』専門家が指摘するその理由」 (2025年7月28日公開)
- デイリー新潮: 「『ギャンブル症の有病率』は何と全国で600万人と推定」 (2025年7月28日公開)
- 帚木蓬生 著『ギャンブル脳』新潮新書