エリカ・ベンケ、BBCニュース(フィンランド・ロヴァニエミ)
「トナカイにたっぷり水をあげてね。それから、君たちも1時間ごとにコップ1杯の水を飲むのを忘れないように」
サンタクロースは、エルフたちにこう呼びかけた。
北欧フィンランドのラップランドが、記録的な熱波に見舞われている。北極圏内にあるサンタクロース村で、サンタクロースが熱中症の危険について説明するなど、決して日常茶飯事とは言えない。しかしフィンランド北部ではこの夏、気温が何日も30度前後に達している。
フィンランド気象研究所は25日、国内のいずれかの場所で30度を記録する日が14日連続したと発表した。これは1961年の観測開始以来、初めてのことだ。
サンタはというと、観光地ロヴァニエミ市にいる。屋内にとどまっている。毛皮で縁取られた赤い衣装は、とても暑いので。
「外に出るのは午後6時以降、気温が下がり始めてから。その時間に初めて、森の湖に泳ぎに行く。それ以外は外出しない」のだという。
サンタの工房は、この状況に明るく前向きに対応している。とはいえ、北極圏の異常な高温は深刻な問題だ。科学者たちによると、原因は気候変動だという。
異例に肌寒く雨の多い春と初夏を経て、7月に入りフィンランド全土でいきなり気温が上昇した。北極圏の限界線より500キロ北にある最北部のラップランドを含めて。ロヴァニエミでは、熱波がすでに2週間以上続いている。
フィンランドでの「熱波」の定義は、最高気温が25度を超える日が3日以上続くことだ。
フィンランド気象研究所の気象学者ヤーッコ・サヴェラさんは、30度を超えることが非常に珍しいラップランドで、今回のような熱波が起きるのは異例だと説明する。
「フィンランド・ラップランドでこれほど熱波が長く続いたのは、1972年以来だ」とサヴェラさんは話す。ただし当時の熱波は、場所によるが、最長12〜14日間だった。
「記録が更新された」とサヴェラさんは言う。
猛暑に見舞われているのはロヴァニエミだけではない。ラップランド各地の気象観測所で、観測史上最長の熱波が記録されている。
今回の熱波で観測された最高気温は31.7度で、ユリトルニオとソダンキュラの2地点で7月下旬に観測された。これはラップランドの季節平均を約10度上回る。25日には、南東部のコイツァンラハティで30.3度が記録された。
この熱波に伴い、北極圏での気候変動の加速について、懸念が再燃している。北極は地球全体の4〜5倍の速さで温暖化が進んでいる。
サヴェラ氏は、長続きする今回の熱波そのものが気候変動によって直接引き起こされたわけではないと指摘する。それでも、「気候変動の影響はある。もし気候変動がなければ、過去2週間の気温はもっと低かったはずだ」とも言う。
オウル大学の北極研究を統括するジェフ・ウェルカー教授も、同じ意見だ。
夏冬を問わず、熱波や異常気象があまりに頻発しているため、その原因は気候システムの根本的な変化でしかあり得ないという。
「世界中で毎日、極端な高温や極端な豪雨という形で気候変動は現れている」とウェルカー教授は話す。「気候変動の指紋が、すでに私たちの目の前にある」。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、人為的な気候変動のため、熱波は以前より一般的な現象となっている。
地球温暖化の進行に伴い、極端に暑い天候はこれまでより頻発し、これまでより激しくなるとIPCCは予測している。
極端な暑さは、ラップランド名物のトナカイにも影響を及ぼしている。
クリスマスにサンタのそりを引く動物として世界的に知られるトナカイたちは、ラップランドの森林や丘陵を自由に歩き回っている。しかし、暑さで繁殖した蚊に追われ、道路や村へと避難している。
「トナカイにとって唯一の逃げ場は、風の強い高地だが、フィンランド・ラップランドの最高地点は標高約1000メートルしかない」とウェルカー教授は話す。
北極圏で今後は、より極端で長期的な熱波が頻発することになる。このため、「トナカイの飼育農家は、日陰を提供するために大きな納屋を建てる羽目になるかもしれない」とも教授は述べた。
苦労しているのは、サンタやトナカイだけではない。ラップランドは本来、涼しい観光地として知られているが、今年の事態に観光客は困惑している。
「ここはものすごく暑い。30度なんて耐えられない。暑さから逃れるために来たのに」。チェコ・プラハから、ロヴァニエミのサンタ村まで来た観光客のシルヴィアさんはこう言う。
「もっと寒いと思っていたから、この暑さに合った服を持ってこなかった。半袖のTシャツが1枚しかなくて、毎日それを着ている」
加えてロヴァニエミでは現在、日照時間が1日20時間もある。午後11時を過ぎても太陽が沈まないため、気温が下がりにくい。
サンタパークの木陰で日差しをよけていたロンドン出身のアディタさんは、「日陰からほとんど出られない。出てしまうと、自分が燃え上がっているみたいな感じになる」と話す。
「イギリスでも似たようなことが起きているけれど、北極圏もこうだとは思わなかった」とアディタさんは言う。「氷と雪はこのテーマパーク、そしてラップランド全体にとって欠かせないものなのに」。
エルフとしてサンタの郵便局で働くエリナさんも、ラップランドで今後、冬がどうなってしまうのかと心配している。
「熱波が『新しい普通』になってしまうのかもしれない」
サンタにとっては、重たい衣装を1年中ずっと着なくてはならないという問題もある。
現状では、気温が下がる夕方以降しか外に出られない。それ以外の時間に外出すれば、わずか10分間で熱中症になる危険があるからだ。
「もちろん、暑い夏が好きな人もいるだろうけど、私は寒さと雪の方が好きだ」とサンタは話す。「冬の方がいい」。
(英語記事 Santa feels the heat as Lapland buckles in Finland’s record-breaking heatwave)
(c) BBC News