トランプ大統領を翻弄する「エプスタイン疑惑」:なぜ米メディアは日本との貿易交渉より熱狂するのか

ドナルド・トランプ大統領がスコットランドに到着した7月25日、EUとの関税交渉が大詰めを迎える中での訪問にもかかわらず、空港での記者会見の焦点は「エプスタイン疑惑」に集中しました。トランプ大統領は、この「無意味な話題」が繰り返し取り上げられることに不満を露わにしました。実際、トランプ氏が自画自賛した日本との貿易交渉が妥結した22日も、米国の主要メディア、特にテレビでは、日本との関税交渉よりも「エプスタイン疑惑」の報道が圧倒的に多くを占めていました。ニュース番組だけでなく、夜のコメディショーでも、この話題はトランプ大統領を嘲笑するジョークのネタとなり、メディアの関心を独占する状況が続いています。

スコットランドで記者団に囲まれ「エプスタイン疑惑」について質問を受けるトランプ大統領スコットランドで記者団に囲まれ「エプスタイン疑惑」について質問を受けるトランプ大統領

「顧客リスト」を待ち望むMAGA派の思惑

この騒動の発端は、7月上旬に司法省が「エプスタイン元被告が少女売春を斡旋したとされる『顧客リスト』は存在しない」と認めたことでした。大富豪として知られたジェフリー・エプスタイン元被告は、未成年女性の人身売買などの罪で起訴され、裁判を控えた2019年に拘置所内で死亡しました。死因は自殺とされています。

エプスタイン元被告は幅広い人脈で知られていたため、トランプ大統領の強固な支持層である「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)」派は、ある主張を繰り広げてきました。彼らは、元被告が斡旋したとされる少女売春の顧客には政財界の大物が含まれており、元被告はそうした著名人を恐喝していたと考えています。さらに、捜査で押収された資料の中に、民主党の大統領経験者を含む大物の名が記された「顧客リスト」が存在すると信じていました。司法省の発表の約5カ月前、今年2月には、トランプ氏の忠実な支持者で司法長官に就任したばかりのボンディ氏も、FOXニュースでそのような文書が「私の机の上に置かれている」と発言し、MAGA派の期待を煽っていました。

未成年者売買斡旋で起訴され獄中死した大富豪ジェフリー・エプスタイン元被告未成年者売買斡旋で起訴され獄中死した大富豪ジェフリー・エプスタイン元被告

トランプ大統領自身も示唆した「リスト公開」

トランプ大統領自身も、2020年の大統領選挙戦中にエプスタイン事件の「顧客リスト」公開を示唆する発言を繰り返していました。これにより、MAGA派の期待は一層高まります。彼らは、もし第二次トランプ政権が発足すれば、FBIのボンジーノ副長官など、FBIや司法省の要職に「リスト公開」に積極的な人物が就任すると見ていました。このため、MAGA派の間では、「顧客リストの公開が近い」「ついにエスタブリッシュメント(既得権益層)たちの悪事が暴かれる」といった見方が広がり、強い期待を抱いていたようです。

エプスタイン疑惑の報道が活発化する米ニューヨークのタイムズスクエアエプスタイン疑惑の報道が活発化する米ニューヨークのタイムズスクエア

まとめ

「エプスタイン疑惑」は、トランプ大統領が言及する貿易交渉を凌駕し、現在、米国メディアの最大の関心事となっています。司法省による「顧客リストは存在しない」との発表が騒動の火付け役となり、エプスタイン元被告の広範な人脈と、未成年者人身売買という重大な疑惑が、政財界の隠された闇を暴くというMAGA派の強い期待を煽りました。トランプ大統領自身も選挙戦中にリスト公開を示唆する発言を繰り返したことで、この期待はさらに増幅されました。この「エプスタイン疑惑」が、今後の米国政治や世論にどのような影響を与え続けるのか、その動向が注目されます。

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